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温故知新「天びん」

7000年の昔から人の営みを支えてきた“天びん”の真実

天びん01

重さは、モノを量る基準として容積とともに、もっとも古くから使われ、社会活動を支えてきた。
質量を正確に量ることができる天びんは、姿を変えながらも現代に大きな役割を果たしている

ものの価値を示す厳正な道具

天びんの起源は定かではないが、紀元前約5000年頃の古代エジプトでは、すでに木の枝を組み合わせた天びんが 使われていたことがわかっている。また紀元前2500年から紀元前1800年頃に栄えたインダス文明の遺跡からは、工芸品といっていいほど洗練された天びんも発見されている。
その発明は、当時の社会経済に大きなインパクトを与えたに違いない。ものを交換したり、売り買いするとき、それまで見た目や、売り手の信用度、せいぜい体積くらいしか、価値の判断基準がなかったところに、天びんは、質量という“厳正な”基準を持ち込んだのだ。同じものなら、だれが量っても同じ数値が示され、中身をくりぬいたり、混ぜ物をしたものは、たちどころに見破られる。天びんの登場で、市場の信頼度は飛躍的に高まり、取引拡大を大きく後押ししたことだろう。
社会に必須の道具となるにつれて、天びんは「公正」や「厳格」のモチーフとして、しばしば神話などに登場するようになる。エジプト新王朝時代の「死者の書」には、死者の心臓を天びんで量り、生前の行いを裁判にかける場面が描かれている。またギリシア神話に登場する女神テミスは、法と掟を司り、天びんで世の理を量った。いまも日本の弁護士バッジには、天びんが刻まれているが、それも女神テミスのエピソードにならったものだ。

進化するも基本原理は昔のまま

混同されることもあるが、天びんが量る質量と、バネばかりなどで量れる重さは異なる。重力が地球の約6分の1である月面では、重さも6分の1になるが、天びんを持っていって量れば、釣り合わせるのに同じだけ分銅が必要になるからだ。地球上でも、場所によって重力が大きかったり小さかったりするところがあって、バネばかりでは数値が変わることがあるが、天びんで質量を量れば、どこでも一定の数値が示される。「それぞれの物体が固有に持っている重力の源」というのが現代の力学における理解だ。
天びんの基本的な構造は、1本のアームの中央を支点とし、その両端に量る物体を吊り下げて質量を比較するというもの。支点から左右の長さが等しければ、同じ質量のものは釣り合うという理屈だ。
その後、画期的な発明を経て天びんは進化していく。まず紀元前のローマ時代に、テコの原理を利用した「棹ばかり」が生まれる。支点と力点、作用点の位置を変えることで、1つのおもりだけで、広い範囲の質量測定をカバーできるようになり、庶民の道具として普及した。
次いで注目される発明が、1669年にフランスの数学者、G・P・ロバーバルが考案した「ロバーバル機構」を使った「上皿天びん」。それまで、支点を上に皿を吊り下げる形が基本だった天びんに、皿を上に載せるという新しい形をもたらした。
この棹ばかりと上皿天びんは、20世紀中盤まで、基本的な構造を変えることなく使われ続けてきた。
島津製作所も、1918年に学校教育、物理実験用に使用される物理天びんを製作したのを皮切りに、1930年には化学分析用などに用いる化学天びんを発売。測定機器メーカーとして、様々な用途の天びんを生み出し、精密さが要求される機械、化学、薬品業界の声に応えてきた。当時の化学天びんの精度(当時は感量と呼ばれていた)は一般的なもので1ミリグラムだったという。
興味深いのは、1939年に開発された大天びん。高さが人の背丈ほどあり、ひょう量(正確に量れる最大限の質量)が、50キログラムにも達する超大型の天びんで、航空機などに使われる合金の研究を目的に開発された。もっとも当時は軍事機密扱いで、わずか数台しか製作されず、存在そのものが秘匿されていたという。

精度の桁を変えた電子天びん

誕生からおよそ7000年、ロバーバルから数えても約280年もの間、基本構造が変わらなかった天びんが大きくその形を変えたのは、1948年。この年登場した「直示天びん」だ。一見バネばかりのような1枚の上皿のみで、分銅を載せる代わりにダイヤルを操作して数値を読み取る構造が特徴だ。その革新的な使いやすさから、従来の化学天びんに代わり、その後のスタンダードとなった。
さらに1970年代には、分銅の代わりに電磁石を利用した電子天びんが登場し、1978年にはマイコンチップを搭載するなど急速に使いやすさと精度を進化させた。2003年には、約50もの部品で構成されていた質量センサを一塊のアルミ合金で再現したユニブロック( Uni Blo c ®)の登場で、精密さと頑丈さを両立する電子天びんが登場する。測定精度は0・00001グラムにたどり着いた。
もっとも、現在の電子天びんは、天びんという名はついてはいるものの、実は重力計である。したがって計測する地域や環境の重力の違いによって誤差が生じてしまう。たとえば日本の北と南では、800分の1もの精度誤差が生じる。そこで、公的な精度の高い測定を行う場合には、校正認定事業者による校正作業が義務付けられている。電子天びんを使用する際にも、毎回、校正分銅を使った簡易的な校正作業を行う必要がある。
ただし、最新の電子天びんでは、校正分銅が内蔵され、日常的な校正作業が簡単にできるようになり、より使いやすさが向上されている。
質量を量る天びんは、古代に生まれた時から、人類の社会生活に欠かせない測定機器として、人々に利用されてきた。その役割は、今も、そしてこれからも変わることはない。

  • 天びん03

    1930年当時の化学天びん(5号NR形)。

  • 天びん04

    高級機に匹敵する性能とリーズナブルな価格を両立。質感の高さも実現したAmidiaシリーズ初の分析天びんAT Xシリーズ

  • 天びん05

    あらゆるサンプルに対応し、正確な水分率測定を簡単に手早く行える電子式水分計MOC63u