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温故知新「分光測定」

光の“色”で物質の特性を測る。あらゆるシーンで活躍する「分光測定」とは?

光を色で分解し、色で物質を測る

雨上がりの空に浮かぶ美しい虹。その7色の華やかな色合いは、複数の色が合わさることにより光が構成されていることの何よりの証である。「分光測定」はそれらの色による反応の違いから、物質の特性を瞬時に分析する手法である。いかにして分光測定が世に登場したのか。ニュートンの時代に遡りながら、その謎をひもといてみよう。

光を色で分解し、色で物質を測る

木から落ちるリンゴを見て、「万有引力の法則」がひらめいたアイザック・ニュートンは、それ以外にも、微積分の発見や太陽系の構造の証明など数々の科学的革新を後世に残した。今回のテーマである光についても、ニュートンは画期的な成果を残している。光のスペクトル分析、つまり光を分解して調べることにも成功したのだ。
子どもの頃、理科の実験などで体験した「プリズム」を思い出してほしい。単なる光がプリズムを介すると、虹のような複数の美しい色合いに分光される。光の色の違いは、波長の違いによって生み出されたものだが、こうしたプリズムの仕組みについて、いち早く気づいたのがニュートンだったのである。
この発見以降、モノの「色」の仕組みも科学的に考えられるようになってきた。リンゴが赤く見えるのは、リンゴの表面の分子が光の赤い色(波長)を跳ね返すから赤いのである。ほかの色(波長)は吸収もしくは透過しているのだ。
18世紀あるいは19世紀には、こうした色についての研究はもちろん、光スペクトルの考え方も日進月歩で深化し、ついには「分光学」が確立していく。それに付随して分光学に基づく測定法「分光法」が登場する。
分光法は、簡単にいえば、物質の状態を色で特定する測定法だ。おおよそすべての物質は、特定の光の波長を反射し、別の波長は吸収するという性質を持つ。いったん光を様々な物質に当てて、波長の動きを調査し、それをデータベース化しておけば、光を当てたときの吸収と反射の特性を調べるだけで、その物質の性質が何であるか、また、液体などに溶けている物質であれば、溶け込んでいる分量を特定することができるのだ。
分光法に用いられる代表的な機器は「分光光度計」である。プリズムで分光できる可視光だけではなく、紫外線に代表される不可視光までをも利用するまでになっており、その精度は格段にレベルアップしている。現在では分光光度計は、食品や化学品をはじめ、電気電子・半導体、環境メーカー、ゼネコン、大学等の研究機関など、あらゆるジャンルのものづくりの現場で用いられている。
これだけ多様な業界に普及した最大の要因は、その簡易性だろう。なにしろ対象物を切り刻むことなく、光を当てるだけで、対象物の中にどんな物質が、どれぐらいの量、含まれているかが瞬時に測れるのだ。詳細な成分分析は他の方法に一歩譲る部分もあるが、手軽に対象物の全体像がつかめるだけに、便利なことこの上ない。
さらには構造的にも難しいものではないため、簡易なものでは数十万円単位、高くても数千万円レベルと、比較的求めやすい価格帯に収まっているのもひとつのポイントだろう。

これからの分光光度計はユーザビリティの強化がポイント

島津製作所はそんな分光光度計の国内におけるパイオニア的な存在だ。最初に島津が分光光度計を世に送り出したのは昭和9年のこと。「ガラス分光写真器GCD」を作ったとの記録が残っている。
ただし、本格的な製造開始は戦後になってから。いわゆる“光電式”の分光光度計に進出した。昭和25年、島津はアメリカで戦時中に開発された光電式分光光度計を輸入した。島津の社員たちはその分析精度の高さ、スピードの速さに驚きの声を上げたという。そこで、社内でも同様の機器を作るべく、試作に試作を重ね、昭和27年には「光電式分光光度計QB―50」を発表。昭和43年にはそれまでは不可能とされていた不透明・半透明の試料も吸光分析する「マルチパーパス自記分光光度計MPS―50」を発表し、世界中を驚かせた。
以来、島津は分光光度計をリードする存在として走り続けてきた。現時点で日本での島津の分光光度計のシェアは40 数%に達しており、文字通りのリーディングカンパニーとして活躍している。
多彩な製品ラインナップを有しているが、中でもヒットしているのは「島津紫外可視分光光度計UV―1800」だ。従来の分光光度計は、測定器とは別にパソコンなどの操作部を必要としていたが、この機種では端末と測定器の一体化に成功。コンパクトなサイズ、PCなどを持ち込みにくい現場でも研究所並の検査環境を実現したことに加え、メンテナンスも容易と好評を博している。
現行の装置が完成するまでには、ニュートンの時代からの様々な技術革新があった。しかし、分光光度計の原理原則―光を色(波長)によって分ける―というシンプルな機構に変わりはない。そのシンプルさと確実性は時代を超越した価値を有しているだけに、これからもものづくりの最前線で活用されていくことになるのは間違いない。
世の中に続々と登場する多様な最新技術、製品、サービスの土台を、分光光度計は支え続けていく。

これからの分光光度計はユーザビリティの強化がポイント
これからの分光光度計はユーザビリティの強化がポイント
これからの分光光度計はユーザビリティの強化がポイント

(上)紫外可視分光光度計
一体型で使い勝手がよく低価格で多くのユーザーに評価を得ている「UV-1800」。2008年グッドデザイン賞を受賞
(中)紫外・可視・近赤外分光光度計
半導体製造、光学材料などの検査・開発に活用される高性能分光光 度計「SolidSpec-3700」。
(下)昭和28年当時の光電式分光光度計
昭和27年に発売された日本初の光電式分光光度計「QB-50」。

https://www.an.shimadzu.co.jp/spectro/spectro.htm