2026.01.23

世界初!「海洋生分解性プラスチック」の分解プロセスを解明

島津テクノリサーチは、世界で初めて「海洋生分解性プラスチック」の分解プロセスを解明しました。この実験結果は、より高性能な海洋生分解性プラスチックを開発するための羅針盤となり、同社には素材メーカーから続々と評価依頼が届いています。

開発をけん引した環境事業部事業部長の八十島誠は、「海洋でのマイクロプラスチックが社会問題となっていますが、その解決策はまだありません。嘆くことしかできないのかと歯がゆい思いでした。受託分析会社として何か役に立てないかと、海での生分解に長けた『海洋生分解性プラスチック』を研究対象に選びました」と振り返ります。

写真後列左から3人目が八十島誠。研究チームのメンバーとともに、島津テクノリサーチの研究室にて撮影

 

悪影響が懸念されている
「マイクロプラスチック」

社会問題として提起されている「マイクロプラスチック」とは、直径が5mm以下のプラスチックのことです。レジ袋や食品トレーなどのプラスチックごみが廃棄され、風や波で削れたり紫外線や温度などの化学的な影響を受けたりすることでマイクロプラスチックになると考えられています。これらが海へと流入すると海洋生物が食べてしまい体内に有害物質が蓄積するほか、その魚を食べる人体にも影響が出る可能性が示唆されています。また、海中に漂うマイクロプラスチックを完全に除去できない点も問題視されています。

プラスチック廃棄問題の解決策
「生分解性プラスチック」

プラスチックがもたらす環境問題を解決する取り組みは、世界各地で行われています。そのうちの一つが「生分解性プラスチック」の開発です。「生分解」とはバクテリアや菌類などの微生物の働きによって、有機化合物が水と二酸化炭素まで分解され自然に還ることですが、その詳細なメカニズムは謎に包まれていました。海での生分解に長けた海洋生分解性プラスチックについても同様で、海洋に放出された後の安全性は科学的に証明されていません。

八十島は「『海洋生分解性プラスチック』と聞くと『海に流れてもそのうち分解してなくなるから安心』というイメージを持ちますが、専門家の共通認識はむしろ逆に近いものでした。海の中で、何がどう作用して分解しているのか。本当に分解しているのか、それともボロボロになってマイクロプラスチック化しているだけなのか。当時はまだ、ほとんど分かっていなかったのです」と振り返ります。

研究室内が喜びに沸いた
「分解経過が見えた!」

2019年に研究がはじまりました。まず取り組んだのは、ISO規格に基づいた試験法で評価された海洋生分解性プラ製品を入手することです。当時は市場に出回っておらず、研究チームは高知県のコンビニエンスストアでアイスコーヒーを購入すると海洋生分解性プラ製のストローを試験的に配布しているとの情報を得て「6時間、車を走らせてアイスコーヒーを買いに行き、無事にストローを入手できました」と当時を回想します。また、実験には微生物を含む新鮮な海水が必要なため、試験のたびに京都の研究所から大阪湾まで出向いて採取しました。

ご報告のイメージ

分解過程を説明するスライド(島津テクノリサーチ提供)

海水にストローを沈めると、1カ月程度でストローの周りに「ぬめり」が発生し、2~3か月で消えてなくなりました。実験環境下で分解することを確認した後の課題は、どのようにして「ぬめり」だけをうまく採り、分析するかでした。ピンセットで剥がしたり、有機溶媒で溶かしたりと試行錯誤した結果、最終的にたどり着いたのは「限外ろ過」方式でした。「ぬめり」を含む水をろ過し、微生物や分解産物のみを効率よく回収して、精密質量分析計で調べることで分子構造の変化を確認できました。世界で初めて分解途中の経過を捉えた瞬間でした。

本研究は、2020年に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に採択され、島津テクノリサーチは「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」に参画しました。研究チームはさらなる海洋生分解性プラスチックの研究に加え、現在は生分解性プラスチック市場の主戦場である土壌環境での生分解性プラスチックの評価方法の確立にも挑戦しています。本件は、島津グループ内で夢や想いを持って主体的に挑戦する社員を称える社内表彰「First a Dream賞」を受賞しました。

八十島誠のコメント

将来の世代に豊かな海を繋いでいく事は、我が国だけでなく世界的にも大きな関心事となっています。質量分析で社会に貢献したい。我々は、今回の研究を通じて、分解の手がかりを掴むことに成功しました。この技術は現在も発展を続けており、3種以上のモノマーから構成される海洋生分解性プラスチックの評価にも応用できる日が近づいています。さらに複数の手段を用いて、より多面的に評価を行い、素材開発者の皆様のニーズにお応えできるように努めて参ります。

 

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