ドローン採水と革新的分析技術で
鳥インフルエンザアラート「宮崎モデル」を構築
ドローン操縦者に声をかけて着水ポイントに誘導しているのは、宮崎大学CADIC(農学部獣医学科)山田健太郎教授です。渡り鳥の糞や水などの環境試料を採取してウイルス検査を行い、鳥インフルエンザの流行兆候をいち早く捉える研究の一環として、ドローンで池の水を採取しています。
ドローンを操作する山田教授のチームメンバー
農家と鶏を守るため
鳥インフルエンザは一度発生すると、感染拡大を防ぐために、発生養鶏場の鶏を全て殺処分し、鶏肉や鶏卵の移動を禁止、広範囲の消毒を行わなければなりません。おびただしい数の鶏が処分されるのは痛ましく、養鶏業に従事する人々の生活や心労などダメージははかり知れません。私たちの食卓に大きな影響があるのも事実です。
宮崎県では、過去に何度か鳥インフルエンザが発生しています。農林水産省は平時から情報を発信し、養鶏業者は基本的な対策を行っていますが、常時万全の体制を保ち続けるのは警戒疲れもあり、難しいものです。
警戒すべき時期や場所を特定しアラートを発信できれば、より効果的な対策出来るはず。という考えから宮崎県では、鳥インフルエンザウイルスの流入経路や推移を予測し、アラートを発信し、県の様々な部局や農家が連携して防疫対策を行うモデルの構築に取り組んでいます。
宮崎大学CADICでは、採水量や前処理技術などウイルス検出についての課題がありました。多くの水を採取するほどウイルスの量は増えますが、処理には時間と労力がかかります。 そのため、少量の水から高感度でウイルスを検出する方法が求められていました。
採水サンプルからウイルス検出に成功
AdvanSentinel社が開発した“COPMAN法”は、下水からのウイルス濃縮について迅速かつ安定的なウイルス回収を実現しています。山田教授が過去にドローンで採取した水のサンプルを分析したところ、COPMAN法を用いて鳥インフルエンザウイルス遺伝子(MおよびH5)の検出に成功しました。
2024年6月に行われた共同研究記者会見
前列右端が宮崎大学CADIC(農学部獣医学科)山田健太郎 教授
AdvanSentinel社の革新的技術
当社と塩野義製薬が出資して設立したAdvanSentinelは、公共衛生や感染症対策で重要な役割を果たすことを目指して、ウイルス検出など感染症対策に関する技術を開発しています。特に、下水からのウイルス濃縮技術「COPMAN法」は迅速かつ高感度なウイルス検出を実現しています。
図:COPMAN法(出典:AdvanSentinel WEBページより)
「COPMAN法」は、液相と固相の両方に含まれるウイルスを回収するために凝集剤を使用する事が特徴で、DNA・RNAを同時に抽出します。抽出した遺伝子を元に、ウイルスの存在を高感度に検出します。処理を始めてから約3時間で抽出できるため、迅速な対応が求められる感染症対策に有効です。
研究を社会に役立てる
この高感度のCOPMAN法が有効であることから、宮崎大学とAdvanSentinel社の共同研究が正式にスタートしました。共同研究では、広く活用できる採水方法や最適化、検出方法の確立、実用性の確認を進めています。
このモニタリング手法が実証されれば、「宮崎モデル」として全国に展開し、養鶏場での鳥インフルエンザ発生を減少させ、鶏肉・鶏卵の安定供給に繋げたいと考えています。
「多くの生物の命が失われる殺処分を防ぎたい」と語る
山田教授の思いが、この取り組みの推進力
AdvanSentinel担当者のコメント
日本各地の自治体や農業関係者から鳥インフルエンザの被害の深刻さを教えていただきました。感染を広げないための殺処分で鳥の命が奪われ、養鶏事業者の人生が変わってしまうレベルの経済的な被害が発生します。AdvanSentinelが下水で培った技術で少しでも鳥インフルエンザの被害が減少することを願い、宮崎県以外のいくつかの自治体とも実証を進め、国や自治体が使える仕組みを整えたいと考えています。