2024.09.05

パンデミックを未然に防ぐ未来へ
東京大学・塩野義製薬と社会連携講座を設立

島津グループは、あらゆる感染症の危機に備えて、新たなソリューションを開発しています。研究の成果をより迅速に社会へ実装するため、官公庁や大学、民間企業との連携プロジェクトも進めています。今回はその取り組み内容を紹介します。

 

感染症の流行を早期検知する「下水疫学調査」

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行以降、感染症対策に関する様々な研究が世界中で進められています。中でも注目を集めるのが、「下水疫学調査(下水サーベイランス)」です。
下水疫学調査とは、都市や施設ごとに下水中の病原体を調査することで、感染症の流行状況を把握する技術です。新型コロナウイルスの感染者の糞便からは発症前から病原体が検出されます。そのため、排水を調べることで流行状況の評価や収束判断、施設ごとの感染状況をモニタリングできます。
また、排水の検査は、人間を対象としたPCR検査のように試料を採取しないため個人の負担が少ないことや、集団の検査を一気に実施できることからも、次世代の感染症調査・対策として期待されています。

 

排水を回収する器具をマンホールに設置する様子(島津テクノリサーチ提供)

排水を回収する器具をマンホールに設置する様子(島津テクノリサーチ提供)

欧米では流行状況の早期検知や収束判断の情報として下水疫学調査の結果が活用されていますが、日本を含むアジア諸国では社会実装に向けた調査研究の段階であるといわれています。日本では現在、早期の社会実装に向けての調査体制構築やガイドライン作りが進められています。

産学連携で国を越えた連携基盤づくりを目指す

 

発表会での登壇者 左から北島特任教授、片山教授、小林イノベーションフェロー、 加藤工学系研究科長、当社常務執行役員の的場、滝沢センター長

発表会での登壇者 左から北島特任教授、片山教授、小林イノベーションフェロー、 加藤工学系研究科長、
当社常務執行役員の的場、滝沢センター長

2024年4月に国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(以下、東京大学)、塩野義製薬と当社は社会連携講座「国際下水疫学講座」を開設しました。企業と大学が連携することで研究や実証評価のスピードを高めて、早期の社会実装を目指します。

北島特任教授らが開発した「EPISENS-S法」は、下水試料を遠心分離し固形物の沈渣を回収してRNAを抽出し、逆転写・前増幅反応後に定量PCRによってウイルスRNA濃度を測る手法です。この手法を改良した「EPISENS-M 法」は、遠心分離法から陰電荷膜による下⽔の濾過に変更したことで「EPISENS-S法」と比べてさらに安定的かつ⾼感度に下⽔中ウイルスRNAを検出できます。

本講座では、本技術などを活用した実証評価を行います。下水処理場や病院・老健施設などの個別の施設に加えて、空港下水や旅客機の排水も対象に調査を行います。無症状者のウイルスも検知でき、発症する数日から1週間ほど早く状況を把握できます。海外から持ち込まれた病原体が国内で流行する前のアラート発令など、より迅速な水際対策に貢献します。いずれ発生すると予想される次の感染症の危機に備えるためにも、各国と情報を共有した国際連携システムの確立を目指します。さらに、本技術の国際標準機構(ISO)への提案活動を通じた、日本発の「下水疫学調査の国際標準」の作成を目指していきます。

当社担当者コメント

あらゆる感染症の爆発的な拡大を防ぐためには、病原体を早期に検知できる「下水サーベランス」を活用して、日頃から備えることが重要です。当社の分析機器・試薬技術で、下水サーベランスの社会実装と普及に貢献していきます。

 

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