2023.07.10

未来を創造する新たな食のかたち「培養肉」

「培養肉」と聞いて、どんな味を思い浮かべますか。実際に食べて、その答えを確かめられる未来が近づいています。

2030年頃、食肉をはじめとするタンパク質が世界人口に対して不足する「タンパク質危機」が訪れると危惧されています。また、畜産業においては、生産工程で大量の温室効果ガスを排出する点が課題になっています。こうした、食糧や環境問題の解決策として注目されているのが「培養肉」です。

 培養肉(大阪大学より提供)

 

「肉」を培養する

培養肉は、動物から採取した細胞を培養することで作られる、代替肉の一種です。「細胞培養して作る」という点で、大豆や昆虫を加工した他の代替肉と異なります。

牧場や飼料を必要としない培養肉は、生産工程で発生する温室効果ガスを削減できるため、畜産と比べて環境への負荷を軽減できます。生産は清潔なラボで行われるため、食中毒や感染症のリスクも低くなります。地球環境、食品衛生など様々な観点からメリットがあります。

ミンチ肉から和牛ステーキへ

現在、世界中で培養肉の実用化に向けた研究・開発が進められています。しかし、技術的な難易度が高く、販売されている培養肉の多くはミンチ状です。そんな中、より本物の食肉に近い培養肉を作る技術として世界的に注目を集めるのが、大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻の松﨑典弥教授が開発した「3Dバイオプリント技術」です。

この技術は、採取した動物の細胞から筋肉や脂肪・血管をそれぞれ培養し、各繊維を実際の食肉の配置と同じように組み合わせるというものです。従来では難しかった赤身と脂肪が入り混じった状態も自由にデザインでき、赤身の間に脂肪が入り込んだ「霜降り」まで再現できます。

当社は2021年から大阪大学大学院工学研究科(以下、大阪大学)と共に、3Dバイオプリント技術で筋肉・脂肪・血管の繊維をステーキ状に束ねる工程を自動化する、という世界初となる装置の開発に取り組んでいます。2023年3月には、大阪大学・伊藤ハム米久ホールディングス株式会社・凸版印刷株式会社・株式会社シグマクシスと「培養肉未来創造コンソーシアム」を設立しました。業界の垣根を越えて連携し、美味しく安全な培養肉の普及を目指します。

開発段階の装置スケッチ(当社作成)

開発段階の装置スケッチ(当社作成)

本コンソーシアムで当社は、細胞培養工程を自動化・効率化する技術、培養肉専用の培地、および培地を評価するソリューションを提供しています。例えば、培地に栄養が足りているか、細胞がどのように代謝しているかなどを確認することで、より効率の良い培養方法の研究に役立てられます。

培養肉は新たな食品であるため、生産工程や成分表示における法規制、培養肉を店舗へ運ぶための輸送体制の整備などの課題が残ります。実際に食卓に培養肉が並ぶようになるためには、大学・研究機関・メーカー・物流企業の各社の連携が不可欠です。

世界初 培養肉の自動製造装置

培養肉の自動製造装置(試作機)

当社が開発中の、世界初となる培養肉を自動で製造する装置の試作機をご紹介します。

この装置は、細胞繊維を重ねる工程を自動化できます。これまで行っていた手作業の何倍もの速さで製造でき、培養肉の生産スピードを各段に上げられます。

「培養肉未来創造コンソーシアム」は、2025年に開催される大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオンNest for Reborn」で、培養肉をテーマに展示を計画しています。開発する本装置で製造した培養肉の試食イベントも検討しています。

培養から美味しさの評価まで

大量生産に向け研究が進む培養肉ですが、島津製作所が目指すのは「より本物に近い和牛」です。当社には細胞の培養状態の評価だけでなく、食の美味しさに関する様々なソリューションがあります。

 

培養肉自動生産フローと当社が提供するソリューション概要図

培養肉自動生産フローと当社が提供するソリューション概要図

例えば、培養肉の柔らかさ、噛み応えなど食感を数値化する小型卓上試験機、アミノ酸やビタミンなど美味しさに関わる成分の種類や量を測る液体クロマトグラフ液体クロマトグラフ質量分析計、香りや風味を生む成分の種類や量を測るガスクロマトグラフ質量分析計などを提供しています。多様なアプローチで培養肉の美味しさを評価します。

今後、この技術開発が進めば、一人ひとりの味の好みや健康状態に合わせて、作り出す肉の成分を調節することも可能になります。味わいは美味しい霜降り和牛、キメ細かいサシ(脂肪)と赤身のバランスを自分好みにカスタマイズした肉を食べられる時代がやってくるかもしれません。

 

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