田中耕一記念質量分析研究所の研究員が日本農芸化学会で表彰

田中耕一記念質量分析研究所の主任研究員・寺本華奈江

島津製作所の田中耕一記念質量分析研究所に所属する主任研究員・寺本華奈江が、公益社団法人 日本農芸化学会より、「企業研究者活動表彰」を受賞しました。

日本農芸化学会は、生命・食糧・環境に代表される農芸化学分野において研究の進歩を図る学術団体です。今回の受賞は、学会発表や講演など、これまでの活動が評価されたことによるものです。

寺本華奈江に、彼女の研究テーマである「MALDI-MSプロテオタイピング」や研究の可能性、そして研究への向き合い方などについて聞きました!

 

「MALDI-MSプロテオタイピング」とは

「MALDI-MSプロテオタイピング」は、細菌を中心とした微生物の種を同定するだけでなく、さらに細かい株レベルなどの識別を可能にする手法です。MALDI-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)で測定したタンパク質の“観測質量”と、公共データベースで公開されている遺伝子情報に基づき算出したタンパク質の“計算質量”とを突き合わせて解析を行う方法です。

本技術の特長や他の技術との違いはどのようなものなのでしょうか?

一つの利点として、遺伝子情報に裏付けられた信頼性の高さが挙げられます。

MALDI-MSでタンパク質の質量を測定します。タンパク質は、微生物が遺伝子情報に従って作ったものです。このタンパク質の設計図が遺伝子です。実際は、遺伝子の塩基配列をもとに翻訳されたアミノ酸配列からタンパク質の計算質量を算出します。設計図をもとに作られたタンパク質と、タンパク質の設計図との両方を利用して解析をする“多面的な分析手法”であることも、信頼性につながっていると言えます。そして、微生物のゲノム解析が進み、公共データベースに登録されている情報が爆発的に増加していることも、MALDI-MSプロテオタイピングの強みになっています。

早さと簡便さもポイントです。基本的な前処理作業は微生物の種類に依存せず共通なものが多く、MALDI-MSの分析スピードを生かした手法だと言えます。

MALDI-MSによる微生物研究の歩み

2000年代前半から半ばと比較すると、研究が加速していることがうかがえます。彼女自身はこの領域に身を置き続けてきました。

MALDI-MSと遺伝子情報とを利用した微生物の同定法は、2003年にアメリカの研究チームが提案していました。ちょうどMALDI-MSが普及し始め、微生物でもゲノム解析が進み始めた頃でした。

私は、研究機関に所属していた2005年からMALDI-MSによる微生物分析法の開発に着手しました。当時は、遺伝子学的手法でも微生物を株レベルで分類することは容易ではありませんでした。

微生物研究の可能性

「MALDI-MSプロテオタイピング」の先駆者ともいえる彼女は、これまでの研究の中でMALDI-MSにより細菌の種を同定するだけではなく、さらに細かい株レベルで分類できることを明らかにし、その技術を新種提案にも適用してきました。

この技術の応用可能性やポテンシャルについても聞きました。

過去に、ヒトの皮膚常在菌でもあるCutibacterium acnes(アクネ菌)をテーマにしました。

「アクネ菌」と聞くとニキビが連想されるため“悪玉菌”というイメージが強いかと思います。しかし、アクネ菌という“種”はいくつもの“サブタイプ”に分類されていて、ニキビに関与するのはこれらのうち1つのサブタイプであることが報告されています。

また、アクネ菌には皮膚を弱酸性に保ち有害菌の増殖を抑制するという“善玉菌”としての役割もあります。

微生物は、同じ種でも機能が大きく異なることがあるので、種をさらに細かいレベルで識別する技術は非常に重要になります。「MALDI-MSプロテオタイピング」でアクネ菌を分析したところ、実際にサブタイプレベルで識別・分類することに成功しました。このことから、薬剤耐性菌や有害微生物の検出に役立つのでは、と考えています。

同様の考え方で、有用な微生物のスクリーニングにも応用できるかもしれません。機能性食品や医薬品などの分野にこの手法が広がっていくと嬉しいです。

やるからにはベストを尽くす

「やるからにはベストを尽くす」。微生物の研究が大好きと語る彼女は、これまでも様々な賞を受賞してきました。一緒にやって良かった、また一緒にやりたい、そう思ってもらえるようにベストを尽くすことが成果に繋がっているのかもしれません。

アクネ菌に関する発表で、2019年度には日本農芸化学会のトピックス賞を受賞しました。この時も、周囲のメンバーが研究を後押ししました!

アクネ菌の研究を始めたのは、(田中耕一記念質量分析研究所の)副所長のひとことがきっかけでした。「腸内細菌はやっている人が多いから、皮膚のアクネ菌をやってみたら?」と言われてトライしました。

皮膚からアクネ菌を取る方法も、過去に縁があった研究機関の先生に教えてもらったものです。京都に出張された時にお時間をいただき、カフェで頼み込みました。

論文発表の決定打になったのも、研究所メンバーの協力です。私が出した推論に対し、所長(田中耕一)は自ら実験して検証を進めてくれましたし、他の同僚もプロテオミクス的手法によるデータ取得でサポートしてくれました。チームで協力して成果につなげるプロセスも研究の楽しさの一つです。

日本農芸化学会より「企業研究者活動表彰」を受賞した寺本華奈江

田中耕一記念質量分析研究所 所長・田中耕一から

「MALDI-MSプロテオタイピング」に関して、当社エグゼクティブ・リサーチ フェローで、田中耕一記念質量分析研究所の所長・田中耕一からのコメントをご紹介します。

新たな領域を切り開く場合、欧米でも誤解されたり特に学術的に低い評価しかされない事があります。プロテオタイピングもその1つだったのでしょう。

寺本は根気よく裏付けを積み重ね、学会からの高い評価を得るまで至った一人、と思います。今後も期待しています。

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