2025年に創業150年を迎える島津製作所は、仏具製作から始まり、京都の伝統工芸と深い関わりを持ってきました。「御好次第何品ニテモ製造仕候也(ご要望に応じて、どんなものでもおつくりします)」という創業当時の精神のもと、漆塗りや銅板加工などの技術が創業当時の理化学機器にも応用され、その手仕事の品質は現代の少量多品種の高精度を誇る工業製品にも脈々と受け継がれています。京都の伝統工芸技術と工業製品の融合により、長く愛用される唯一無二の製品のコンセプトモデルを京の匠と共に制作しました。
手仕事による高品質を生み出す京都の伝統工芸と機械加工による高精度な量産品を製造する工業製品。2つのモノづくりの価値観を融合することで、新たな価値の創出を探索しました。京都発祥の老舗の科学技術企業として、同じく老舗の地場産業と協業、発信することで、新たなコラボレーションのきっかけを生み、地域地場産業の促進に寄与できることを心より願っています。
島津製作所・伝統工芸制作チーム
いいものを見分ける、使う、手に入れる「目利き」という人種が減ってきていると感じる。職人にとってはそんな人種が減る中、いいものをつくる意欲が減衰、それに伴い後継者育成もままならない時代である。職人側にも課題が多い、伝統技法にこだわり、残すことに注力しがちであるが、新しい使い方、素材そして技法横断型で提案することに、ものにこだわる職人の立場で参画する必要を感じている。そんななか、島津製作所さんの取り組みは技法横断型であり、医療機器、検査機器など従来では伝統技法とは遠い世界の中で、あらためて専門分野の方々にも「目利き」を増殖することになればと願っています。
大入百太郎工房 二代目・大入百太郎
伝統産業横断型の研究会で活動する中で、島津製作所さんとの出会いは8年前にさかのぼる。京都府の紹介で、本社ロビーにおいて伝統産業に関連する展示会ができないかということであった。「企業が伝統技法を使ったお誂えを依頼する」という仮説のもと、来客用お菓子から記念品、社員向けの手帳まで幅広い提案を研究会で試作、展示会は好評であったと聞いている。以来、京都府との包括協定も結ばれ、いろいろなノベルティー提案などよい関係を持たせていただいている。
伝統産業が苦戦する中、依頼内容を制作するだけの受注ではなく、企業のストーリーを理解して提案できる力が重要です。また企業内の企画部門とのフラットな関係での協業はこれからの伝統産業の一つの方向性だと思われます。島津製作所の事例がいろいろな方の刺激となり、道筋がみえることを期待しています。
新工芸研究会 企画担当・吉田治英