水素燃料インフラの漏洩を高精度・安定的に測定する技術

その他のソリューション

燃料電池車、水素エンジン車等、水素は次世代モビリティにおいて、重要なクリーンエネルギーの一つと位置づけられています。

水素燃料車の実用化に向けた、燃料電池やエンジン・水素タンク・配管等で構成される車載システムの製造や、液体水素や高圧水素ガスを製造・貯蔵・輸送・利用するためのインフラの整備の際に、「水素が漏れないための密閉性」の検査は重要です。ここでは、水素の漏れを直接測定する島津製作所の水素リークディテクタを紹介します。

水素燃料インフラの重要性

日本での水素発電、水素インフラの実証実験は、2014年に始まった関西国際空港での「水素グリッドプロジェクト」等、過去から多くの試みが進められ、2017年には世界で初めて水素基本戦略を策定しています。2021年6月「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にて「水素」がキーテクノロジーとして明記され、自動車用途以外も視野に産業競争力の強化が示されました。また欧州でも、2020~2021年にEU、ドイツ、フランス、イギリス、スペイン、イタリア他が、それぞれ水素戦略を発表しています。このため、今後、多くの地域で、水素ステーションや水素グリッドの実証・整備が進みます。水素ステーション市場は大きな成長が期待されています。

【 図1 「第一回モビリティ水素官民協議会(9月8日開催)資料より抜粋 】
* Woven City:トヨタが計画する「コネクティッド・シティ」

漏れ出た水素を直接測る

水素燃料インフラは、今後、実用化・普及に向け展開されます。車載タンクに多くの水素を充填できれば航続距離を延ばすことができるため、水素スタンドの常用圧力基準は82MPa(約809気圧)まで高められており、高圧ガスを取り扱う上で、インフラの構成部品や、水素ステーション等の貯蔵施設にて漏れが無い事は重要になります。

高圧な水素を扱う水素燃料インフラを構築し保全するため、「インフラの構成部品の製造時の検査」「インフラを建設する時の立上検査」「インフラの稼働後のメンテナンス時の検査」が実施されますが、それぞれに「漏れ検査」が実施されます。

水素リークディテクタは水素ガスの漏れを直接検知できるため、漏れ検出、漏れ箇所の特定等、水素インフラの安全に貢献します。

水素ガスの検査方法

検査対象や、検査場所等で適切な検査方法や検査作業を選択する必要があります。

試験方法は、内部に高圧水素を充填した検査対象(試験体)に対し、外側の大気を吸い込むことで、漏れ出た水素を検知する方法(水素ファインスニッファ法)や、使用状況とは圧力の方向が逆になりますが、試験体の内部を真空に排気し、外側から水素ガスを吹き付け、試験体内への漏れを検出する方法(水素真空法)等、があります。

【 図2 検査方法 】

水素ディテクタを実用計測方法とした島津製作所の技術

水素ガスを使った漏れ検査での計測機が、水素リークディテクタになります。島津製作所の水素リークディテクタは、これらの検査方法どちらにも対応できます。

【 図3 水素リークディテクタ*1

計測方法に関わらず、水素ガスの測定精度を上げ、安定した測定を行うことは、現場で使用される計測機器の技術として大変重要です。島津製作所ではこのため更に分離技術を進化させています。それは、ヘリウムリークディテクタに採用している「独自技術であるイオン軌道が偏向角270°の分析管」の採用です。この分析管技術が「ガスの選択性」において、他社製の質量分析管(偏向角90°)を上回る性能を確立しています。(図4、5参照)

イオンソースでイオン化されたH2イオンとH2Oイオンは電界の中で飛行軌道が変わります。但し一部のH2Oイオンは反射し、水素分離用の中間スリットに入射します。このH2Oイオンの検出コレクタへの入射を防ぐために、偏向角を270°に拡大しています。

【 図4 水素の分離・検出方法 】

【 図5 軌道の比較 】

質量分析計と半導体水素センサーの比較

表面のガス吸着を利用する半導体水素センサーも水素の計測に使われています。質量分析計は、半導体水素センサーより優れた計測性能を持っています。

【 表1 計測手法の比較 】
計測精度に影響を与える事項質量分析計半導体水素センサー
測定環境の影響
感度
ガスの選択制 良好(水素のみを計測) 悪い(可燃ガスにも反応)
大きな漏れの検出後の回復 リアルタイムで回復 非常に遅い

水素社会の実現に向けて貢献する島津の分析技術

質量分析技術は、製薬・化学・食品等、幅広い分野で利用される技術です。島津は保有する基礎技術を活用し、新たな社会課題の解決に向け貢献できる技術の提供を続けます。

また、水素は反応性が高く、燃焼の危険性や、材料を水素脆化させる等の課題も多く、これらの解決に向けた分析計測技術の開発にも取り組んでいます。

モビリティ材料の水素脆性を試験する方法

*1 本製品は島津産機システムズ株式会社にて製造・販売をしております。