Our Story
いろいろなミチ(道・未知)
島津の社員インタビュー
服部 充宏

旅商人のバラード

服部 充宏
経営戦略室 グローバル戦略ユニット
社外連携グループ

僕は何のために生きていくのか

服部さんは、パンパンに膨らんだ布製のカバンを提げて取材場所に現れた。 「これね、河内木綿といって文様に特徴があるんです。江戸時代から続いてるんですが、職人さんもすっかり少なくなって。なかなかいいでしょう? それからこれ。タコシャンっていって、たこ焼きに合うシャンパンです。昔、河内にはワイナリーがぎょうさんあって、最先端の醸造技術があったんです。それも、いまではすっかり数を減らしてしまっていて。そういった地元の特産品を知ってもらおうと思って、クラウドファンディングに挑戦して、この「河内のギフト」を企画したんです。「河内のギフト」は結婚式の引き出物のカタログギフトやお歳暮などに使えて、10個ある河内の特産品から一つを選んでもらえるようになっています」

次々とカバンから出してきたのは、服部さんが生まれ育った大阪府八尾市を含む河内地方の特産品。ちょっとした旅商人だ。あふれる「地元愛」を隠そうとしない服部さんは、仕事の合間を見つけて河内の特産品を発掘してきては、全国にPRする活動を継続している。

タコシャンに至っては、自ら「たこ焼きづくりの修行もして、イベントなんかの時に一緒に味わってもらってるんです」というから、相当の熱の入れようだ。

こうしたものを発掘したり企画したりするのは、会社員として働きながらの活動では、相当忙しいはず。しかし、人とつながることが大好きな服部さんらしく、すべてを自分がやっているのではなく、
「これまで出会った様々な人をつなげて、それぞれの得意なことを担ってもらえるように自分が巻き込んでいるだけ」
と楽しそうに語る。

いつも裸足で駆け巡っていました(4歳頃)
いつも裸足で駆け巡っていました(4歳頃)

昔、二人の叔父から聞いてきた昔ばなしや地元野菜の話に、いつの間にか影響を受けていた自分に気が付き、地元を盛り上げたい、歴史と今の人をつなげたい、生まれた地元の歴史を知らないのはもったいない、と思うようになった。

「大学時代、将来の進路について悩んでいた時期があって。『自分がやりたいことは何なのか』『自分は何なのか』を真剣に考えたんです。何のために生きていくべきかっていうことです。そのなかで気がついたことの一つが、「地元」というキーワードなんです。自分が生まれ育って、思い出がたくさんある町の人とのつながりを大切にしたい。もっとみんなが人と関わって生きていけるようにしたい、そういう思いで続けています」

カタシモワイナリーの高井社長とのツーショット(2014年8月)
カタシモワイナリーの高井社長とのツーショット(2014年8月)
タコ焼きとタコシャンを寮祭初出店(2014年10月)
タコ焼きとタコシャンを寮祭初出店(2014年10月)

行き詰まったら、とにかく動く

大学では工学部でカーボンナノチューブの素材を研究した。学業の傍ら、柔道部や旅行サークルでも活動し、さらには学園祭の実行委員にも手を挙げた。とにかく人と関わるのが好きなのだ。もっとも、やりすぎて留年の危機を迎えてしまい、自分自身について腰を据えて考えたのだという(留年はせずに済んだ)。そこで、キーワードとして浮かび上がったのが、先に紹介した地元志向と、最先端のテクノロジーで、二つがリンクする企業として島津の名前が目に留まり、2007年に入社した。

今では懐かしい、島津メディカルシステムズでの送別会(2012年3月)
今では懐かしい、島津メディカルシステムズでの送別会(2012年3月)

配属されたのは医用機器事業部。本社の営業として2年間、また島津メディカルシステムズに出向して3年間、最先端の医療を提供する医師と密に関わり、充実した日々を送った。あちこちの医療機関を飛び回る姿は、やはり旅商人を彷彿とさせる。

その後、医用機器事業部グローバルマーケティグ部に異動。自分がマーケティングについて勉強不足と感じると、すぐさま経営大学院の受講を決め、MBAを取得した。たいへんなバイタリティである。 「この大学院にしたのも経営のスキルを学ぶだけでなく、1学年に600名もの学生が在籍していたことが決め手でした。会社だけでは作れない広い人脈ができたのは大きかったですね。貴重な体験をすることができました」と振り返る。

大学院には金融系、製薬、製造、起業家、医師など、あらゆるジャンルの職業人が集まっており、それぞれが強い危機感を抱え、MBAの門戸を叩いたのであった。そうした人々と親しく言葉を交わす中でとても刺激を受け、それがまた楽しかったという。
「マーケティング部の仕事だけでなく、外の空気にも触れてみて、さらに顧客の意向を反映した画期的な製品を提供したいという思いが強くなりました。そうしなければ、どんどん他社の後手に回ってしまう。でも、そうはいっても目の前の業務を優先するというジレンマを組織として抱えていて、実際にはなかなかうまくいきませんでした」と唇を噛む。

グロービス経営大学院 白熱のディスカッション、授業が終われば仲間
グロービス経営大学院 白熱のディスカッション、授業が終われば仲間
卒業式にて、クラスメイトとお決まりの帽子投げ(2019年5月)
卒業式にて、クラスメイトとお決まりの帽子投げ(2019年5月)

課題解決のスキルを磨くのに役立ったのは、労働組合の活動だった。島津製作所は入社すると社員全員が組合員になるユニオンショップ制のため、組合活動を通じて、他の事業部の社員とも広く知り合うことができる。さらに、その活動のなかで島津のそれぞれの問題を共有することができる。組合活動を体験するなかで、会社や事業部をより良く変えていくには、組合は重要な組織だと実感した。

名物になりつつあるケーキビュッフェ、組合仲間と(2018年1月)
名物になりつつあるケーキビュッフェ、組合仲間と(2018年1月)

再び東京支社に着任したとき、本社とは違う営業拠点としての働き方の問題や、フロアごとの交流の少なさなどに危機感を覚え、「現場の課題を拾い上げる仕組みを作りたい」と、2017年10月、組合の東京支部長に立候補した。

「労働組合はただ会社に待遇改善を求めるだけではなく、社員の生の声で会社を変えていく大きな役割を持っているんです」
人と人をつなげる活動の一つとして、今回十数年ぶりにクリスマス会を企画し、大いに盛り上がった。

新たな試みの屋形船、今年もやります(2018年7月)
新たな試みの屋形船、今年もやります(2018年7月)
12年ぶりに復活させたクリスマス会(2018年12月)
12年ぶりに復活させたクリスマス会(2018年12月)

人と人をつなげて課題を解決していきたい

思うところは、まだまだある。
「うちの会社は、長い歴史の中で常に新しいことにチャレンジしてきたものの、それを事業化し、成長させるのが下手だと言われてきました。自分でも課題だと感じていて、MBAのスキルを実践して、きちんと事業化してみたいと思っていたんです」

2018年、その機会が訪れた。島津エス・ディーが開発、製造、販売していた再来受付機「メルシス」をもっと拡大させるために、島津本社で販売していこうというプロジェクトが立ち上がったのだ。再来受付機に問診機能を組みこむというプロジェクトも並行して推進。
服部さんはその後、新規事業を立ち上げる経営戦略室に移り、事業化を進めることになった。

「再来受付機の改良から始まる新事業は医療従事者の方々の負担を減らすことができ、医療機関の働き方改革にもつながります。そのあたりで役に立てる方法をもっと考えていきたい」と展望する。

さらに同年、全社横断で若手社員を集め、スタートアップ企業と連携して、新事業を立ち上げるオープンイノベーションプロジェクト「SHIPS」のメンバーにも抜擢された。 社会課題に熱く向き合うスタートアップ企業や投資ファンドの人たちと議論を交わし、社内のさまざまな部署の人間とをつなぎ合わせて、新しいビジネスの芽を育てていく。忙しいのは間違いないが、人と関わることが三度の飯よりも大好きな服部さんにとっては、やりがいの方がはるかに大きい。

デザイン思考を用いたアイデアソンでのグループワーク(2018年9月)
デザイン思考を用いたアイデアソンでのグループワーク(2018年9月)
マッチングイベントにてスタートアップと面談中(2018年10月)
マッチングイベントにてスタートアップと面談中(2018年10月)

「人と人をつなげればつなげるほど、課題解決の方法は見つかります。やるからには、新事業をどんどん成長させてスピンアウト※させて、島津より大きな会社に育てたい」と意気込む。
※既存の企業や組織の一部を分離し、独立した別の企業や組織とすること
社会に出た多くの人が、長いキャリアのなかで何度かぶつかる「変わらなくては」という思い。服部さんは、人好きする風貌と圧倒的なバイタリティで、その道を切り開いている。

そして今後に向けて、夢を語った。
2025年、地元大阪で万博がある。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、島津がヘルスケアでリーダーシップを発揮できるようにしたいという。
「島津のせっかくの技術を早く役立つようにしたいんです。人と人が行きかい、笑顔になるために島津の技術が世の中で役立ち、大好きな地元大阪・関西の活性化につなげたい。それが今のモチベーションです」

地元青年団でのワンシーン
地元青年団でのワンシーン
服部一族恒例の種まき_MSBUの服部くんもいる!
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※登場する社員の所属・役職名は
記事公開当時のものです。