SHIMADZU × Diversity 対談

どうすればダイバーシティ&インクルージョンは進むのか。日本の、そして島津製作所はどうなのか。 当社の常務執行役員でダイバーシティ経営担当の梶谷良野が、一橋大学大学院教授のChristina L. Ahmadjian先生にお話をきいた。

01

日本企業のダイバーシティ&インクルージョンは進んだのか

ージェンダー、外国人採用 日本と海外はここまで違うー

梶谷
日本企業のダイバーシティ&インクルージョン推進(以下D&I)について、先生のご経験も踏まえてぜひお話を伺いたいと思い、本日は楽しみにしておりました。アメージャン先生は日本の企業で勤務されたご経験がおありだとか。
Christina L. Ahmadjian先生(以下先生)
はい。当時はJapan as NO1と言われた時代で日本的経営に興味があり、ハーバード大学を卒業後、1981年に来日して、ある電機系の大手メーカーに入社しました。秘書という肩書きでしたが、実際の業務は灰皿を洗って男性社員の机に置いておくこととお茶汲み。それはもう、たいへんな異文化体験でした。
それでも自分らしく成長できることがあると2年ほど勤めましたが、さすがにこれ以上はキャリアにならないと退職し、アメリカに帰りました。
梶谷
私も最初は先生と同じ感じでした。でもまもなく男女雇用機会均等法が施行され、当社でも少しずつ女性社員の活躍の場が広がっていきました。
私は1995年に女性社員として初めて海外駐在に就きましたが、まだ当時は珍しい存在で、奇異な目で見られることがありました。いまは女性社員もどんどん海外に行って、しっかり仕事をこなしている。大きく変わったなという実感があります。
先生
梶谷さんはまさにフロントランナーだったわけですね。たしかに昔と比べると、近年の日本企業は変わったかもしれません。でも、海外と比べるとまだ大きなギャップがあります。
私は、一橋大学の学生や、社外取締役を引き受けている企業で同じようにダイバーシティ推進について意見を求められることが多いのですが、そのたびに、“Don’t compare Japan to Japan. ”と言っています。世界レベルの企業と比べないと意味がないのです。
日本国内では、やっと少し女性活躍が進んだかもしれませんが、たとえば、国籍や学歴、年齢などの多様性はどうでしょうか。社内のほとんどが日本人で、しかも出身大学も似通っています。
また、管理職や役員になる年齢の幅も狭くほとんど同じです。アメリカの企業であれば、国籍や年齢、ましてや学歴は関係ありません。能力次第でどんどん昇進して会社のトップになっています。
事実、アメリカ企業のトップの国籍は非常にバラエティに富んでいます。もしこれらの点が昇進の支障になることがあれば大きな問題になってしまいます。
梶谷
たしかに、当社のアメリカのグループ会社の話では、採用時の履歴書に性別や年齢は書かないそうで、特に人種の話などはご法度になっていると聞きました。
障がい者やLGBTQの方への理解という視点で比べてみても日本は海外に比べるとまだまだですね。
先生
もし、日本で細々と経営し続けたいのであれば、私は無理してD&Iを進める必要はないと思っています。D&I推進は本当に大変ですから。でも、世界の企業と対等に渡り合い、会社を維持していきたいなら本気で進めるしかありません。

02

イノベーションを生み出すD&I推進とは①

ー心理的安全性と自律的なキャリア構築が社員と会社を変えるー

先生
日本企業の役員構成を見ると、女性は1人か2人。外国人はもっと少なくて、年齢も定年に近い同じような人ばかり。
そもそもD&Iは多様な意見を取り入れてイノベーションを促すことが目的ですが、これではとてもイノベーションの創出につながりません。
梶谷
おっしゃる通りかもしれません。大勢のなかで自分がマイノリティの立場になると、同調する空気に反し、違う角度から「わたしはこう思うんだけど」という意見を言うのは相当勇気が必要になります。周りを気にしてやめようかなとなってしまう。イノベーションを促すには程遠いですね。
先生
会社全体を見ると、日本の大手企業の大半は、イノベーションの創出を目指してD&Iを推進していると言いながら、まだ目指すべき姿からほど遠い状態にあると思います。
でも一方で、社内のチームやグループ単位で見ると、女性や外国人、障がい者など多様な社員が活躍してるところもある。個々の小さな組織の変化に目を向けて、D&Iの効果に気付くことも大事ですね。
梶谷
最近私が大切だなと思っているのは、心理的安全性です。何でも言えて、いろんな人の意見を受け入れられる。意見がぶつかっても安心して議論が進められる。これがまずD&Iの第一歩だと思います。
先生
私も同じ意見です。ダイバーシティが高まっても、だれもが口をつぐんでしまわないといけないような組織ではなんの意味もありません。
もう一つあげるとするなら、「やる気」です。自分がやりたいことをやっている、やれているという実感をもてれば頑張れるし、社員に向上心が生まれ、組織の活性化を促します。
一般的に男性社員は「この会社のために、一生懸命がんばろう」という目標を持つのに対して、女性社員は「社会のために、みんなが一緒に素晴らしいことを成し遂げるために」という目標を掲げるそうです。
もっと言うと一人ひとり価値観が違います。そうした一人ひとりの本音を汲み上げ、一つに纏めることができる、そんな組織運営が求められているのです。
梶谷
たしかに一人ひとりが「やる気」を出すことで組織力も高まりますね。
社員の中には、「自分の仕事は大した仕事ではないから」と「やる気」が出せず、自分のキャリアを描くことや成長しようとすることを諦めてしまっていることがあります。
でも、たとえどんな仕事であっても今あるやり方がベストというわけではなく、自分で工夫して変えていくこともできると思います。
そうする時に大事なことは、自らの業務に求められていることは何なのかを目先のことだけでなく、部門、会社、社会など視野を広げて捉えることかと。そこから自分なりの工夫や努力を実践し「やる気」を高め、更なるキャリアアップにつなげられるようになって欲しいと思います。
どんな業務でもやり方次第で成長につなげることはできるということを知ってもらうことも大事だなと感じています。
先生
日本には、キャリアをつくるというイメージがないですよね。キャリアは魅力的なことで、次のレベルに行けば給料も上がり、自由度も上がり、楽しくなる。本来はカッコいいことのはず。しかし、日本の会社では同質な環境で疲れた管理職を見ると、昇進したくないと思ってしまう。
よく日本では、女性のロールモデルがいないと言われますが、男性のロールモデルもいないのではと思います。尊敬している人がいたとしても、働き方を見ると、同じようになりたいと思えない。
本当は役が上がれば、自分が好きなようにチームを組み立てられるし、部下のモチベーションも、アイデアも自分の思うようにチャレンジできるのです。

03

イノベーションを生み出すD&I推進とは②

ー30代の役員が誕生する風土ー

先生
私が社外取締役として参加している取締役会で次の社長を誰にするかという話題になったとき、すぐに「彼はまだ若すぎる」という反応が出ます。なぜなんでしょう。その彼というのはもう50歳をとっくに超えています。いったい何歳なら良いのでしょう。
梶谷
その点は、我々の身近な課題でもあります。
先生
10年ほど前、中国と韓国と日本の役員層を集めたワークショップを開催しようと計画したことがあったんです。
でも、結局うまくいきませんでした。その理由の一つが年齢ギャップでした。中国からの参加者は40歳前後、韓国からの参加者はもっと若い。日本はみんな60歳手前です。それでは会話が噛み合うはずがありません。
日本中の企業が経営改革をしなければいけないと考えています。
でもなかなか進まない。その原因の一端はここにあります。
若い経営者は、当事者として企業の課題を解決していかなくてはいけない。その意識の差が、いまの3カ国の企業の経営に現れていると思います。
梶谷
たしかにそうかもしれません。とても大事なご指摘だと思います。徐々にですが年齢でなく実力で登用できる仕組みを定着していければと思います。

04

一人ひとりが多様性の一つ。自分でできるD&I推進とは

ーお互いを知り、リスペクトするところから始めようー

梶谷
先生は以前、日本は組織のダイバーシティも少ないけど、個人のダイバーシティも少ないと仰っていましたが、私もそこは非常に共感しています。
先生
最近の研究によると、個人のダイバーシティも非常に大事ということがわかってきました。たとえば、スティーブ・ジョブズ氏はいろんな経験をし、ワンマン・ダイバーシティを実現して、それを公言していました。
ところが日本では、パーソナリティを隠してしまう文化がある。組織のなかではなるべく出さないようにして、おとなしく過ごそうとする。望んで画一化しようとしているのです。もったいないですよね。
梶谷
その感覚もよくわかります。日本人はあまり自分を出さないですね。
私は折に触れ、人に話しかけるようにしています。声を掛けるとびっくりされることもありますが、仕事ではあまり話さない人でも雑談であればいろいろ話してくれることもあります。
そうした雑談を通じてその人の考え方や価値観、生活のスタイルなど、いろいろと発見することがあります。
少しでもお互いに理解できる部分ができると、距離が縮まってスムーズに仕事が進むこともしばしばです。コミュニケーションでお互いを知ることがD&Iでは大事だと思います。
先生
素晴らしいですね。まさにお互いをリスペクトすることからイノベーションは生まれてくるのだと思います。
働き方が多様になり、気軽な雑談が難しくなってきました。でも、雑談などお互いを知るための時間をあえて作って話す。対人間としてのコミュニケーションがより大事になると思いますね。
梶谷
多忙な日々で目の前の業務しか見えなくなると、ちょっとした会話をする時間もなくなって社員同士のコミュニケーションが減ってしまいます。
会社全体がコミュニケーションの重要性を理解し、積極的に会話し、相手を知ることでリスペクトにつなげる。こういう日々の積み重ねを一人ひとりが大事にできる会社にしていきたいと思います。
先生、本日はどうもありがとうございました。

PROFILE

Christina L. Ahmadjian
商学者。Ph.D.(カリフォルニア大学バークレー校)。
一橋大学大学院経営管理研究科教授
専門は組織社会学で比較コーポレート・ガバナンスや、グローバリゼーション、資本主義システム、企業グループ、日本のビジネスおよび経営を研究している。ハーバード大学卒業後、1981年来日し、英語学校教員を経て、大手電機メーカーの工場で秘書として勤務。83年、帰国し、スタンフォード大学でMBAを取得。米カリフォルニア大学バークリー校博士課程を経て、1995年コロンビア大学バークレー校の助教授に就任。その後、東京大学客員教授として再来日、2001年に一橋大学助教授、2004年より教授。三菱重工業取締役、住友電気工業取締役、日本取引所グループ取締役、アサヒグループホールディングス取締役、NEC取締役等も歴任。
梶谷良野
株式会社島津製作所
常務執行役員 人事・ダイバーシティ経営・健康経営担当
1984年(株)島津製作所入社 営業本部貿易部貿易業務課を経て、1995年にShimadzu(Asia Pacific)Pte. Ltd.(シンガポール)で当社の女性社員初の駐在員となる。1997年に帰国し、国際本部 企画管理部と島津インターナショナルを兼務。2000年から(株)島津インターナショナルに出向し、2007年に同社部長、2009年に島津製作所 生産支援本部 生産・物流革新室 担当課長を兼務。その後、両社での部長兼任を経て、2014年島津グループ初の女性社長として、島津インターナショナル 代表取締役社長に就任。2017年に島津製作所にて執行役員・広報室長、コーポレート・コミュニケーション部部長を経て、2021年4月に常務執行役員 人事・ダイバーシティ経営・健康経営担当に就任。現在に至る。

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