社長と若手社員の座談会
島津は創業以来150年、科学技術で社会に貢献することを志し、近年は「人と地球の健康」への願いを実現することを経営理念に掲げ活動してきました。地球の一員として、そこに働く人間としてこれからの私たちは、どうあるべきでしょうか。
各部署の若手社員が、社長の山本と語り合いました。

山本靖則
代表取締役 社長

河村侑馬
モノ作りセンター
電子グループ

村林謙
営業本部
国内営業ユニット

Silvey Joshua
営業本部
営業推進ユニット

堤田有美
医用機器事業部
技術部

馬場栄里花
分析計測事業部
ライフサイエンス事業統括部

倉田星哉
基盤技術研究所
みらい戦略推進室

受け継いだ誠実と信頼
山本
今日は集まってくれて、ありがとう。次の島津を担う若い世代と、とことん話せるので、私もワクワクしています。ぜひ率直に語り合いましょう。
じゃ、まずみなさんにお聞きしましょう。島津の強みは、何だと思いますか。
村林
やはり歴史じゃないでしょうか。私は2年前、キャリア採用で入社したので、特に強く感じます。150年の歴史があるということは、それだけ多くの知見が社内にあるということ。そして、その実績に裏付けられた信頼もある。そこは、とても大きいと思います。
山本
なるほど。お客様、代理店、協力企業や取引先のみなさん、そして他にも協力関係にあるさまざまな方々。それぞれとの間に厚い信頼があります。それは本当に大きな財産ですよね。

河村
島津には誠実という言葉がぴったり当てはまるなと思っています。私はモノ作りセンターに所属していますが、誰もがものづくりに対して誠実です。今こうして他の部署のみなさんとお会いしても、誠実な姿勢を持っている。これは強みだろうと私は思うんです。
堤田
それは私も感じますね。私が所属している医用機器のソフトウエアやアプリケーションの開発グループでは、自分が手を掛けて作ろうという思いを強く持っている人が多いんです。島津は150年前から、ないものは自分たちで作り出してきた歴史があって、「これは自分の製品だ、自分の技術だ」という自負を持っている人も多いと思います。
馬場
私は入社以来6年、分析計測機器のLCビジネスユニットでオートサンプラー関連の開発に携わっています。最近ではいくつかの製品開発でリーダーを任せられる機会もあり、オートサンプラーといえば私という自信を少しずつ持てるようになってきたなと思います。
山本
それは立派です。その思いは、これからもぜひ持ち続けてほしいですね。


変わるもの、変わらないもの
山本
我々は「科学技術で社会に貢献する」という社是に従って、事業をしています。私はこの社是があって本当に良かったなと思うんです。
時代時代で社会が求めるものは変わります。主要な産業は変わり、どういう価値観を大切にするかということも変わる。それに対応して我々は新たな製品、サービスを次々と生み出してきた。大気汚染が課題となれば、それを分析できる装置を開発し、水質汚染が問題となれば、その計測装置を製造する。つまり提供する価値を時代によって変えてきた。だからこそ、150年やってこれたのだと思うんです。でも、その底流にある「社会に貢献する」姿勢は変わっていないんですね。
これから先の50年、100年を見据えた時も、我々のこの社是は、大切にしてほしいと思うんだけど、みなさんの意見はどうですか。
倉田
良い社是だと思います。科学技術が近代化を推し進めてきたのは間違いないですし、私たちは、そこに寄り添っていたからこそ社会に価値を提供できた。ひとつあるとすれば、将来、人文系的な文脈を盛り込んでいってもいいのかなと思います。私は入社以来AIロボティクスを研究してきて、シリコンバレーに赴任させてもらいました。そこでは新規事業創出の手法やAIの最新技術を学んできました。その関連の研究者が集まる学会などでは最近、人文系の学問の知見を耳にする機会が増えています。哲学や倫理学、心理学などです。

山本
たしかに、そういう側面はあるかもしれません。もっとも、科学技術ってこれまでも人文系的な知見を折に触れて盛り込んできて、私が技術者として現場にいた頃は「人間中心」という考え方が盛んに言われていました。これもひとつの文理融合です。これからも人文系的な要素と協調していく場面はあるでしょう。もしかしたら、近年になって、我々が経営理念を加えたのもそういう思いがあったからかもしれませんね。
「『人と地球の健康』への願いを実現する」という経営理念もまた、受け継がれていくだろうと思っています。どれだけ時代が進歩したとしても、人は人です。ご飯も食べないといけないし、寝ないといけない。機械にはなれないんです。唯一変わるとしたら、我々の記憶をデジタル化して残すということはできるようになるかもしれません。でも思いをデジタルに移せるかというと、それはできない。
Silvey
そんな人生はいやだなあ(笑)
山本
でしょう?(笑) そして、その我々が生きている地球は絶妙なバランスのうえに成り立っています。我々は、当たり前のように息をしているけど、空気層の厚さは、地表からほんの100kmしかないんですね。そこが今どんどん熱くなっているわけです。なおかつ、我々は地球からエネルギーをもらわないと生きていけない。これからどんなに時代が進んでも、これは変わらないでしょう。だからこそ、「『人と地球の健康』への願いを実現する」という経営理念は、これからも大事にしていかないといけないと私は思っています。
Silvey
近年、火星探査を目指そうという実業家が現れています。もしかしたら、人の生活する範囲が地球だけじゃなくなって、「人と宇宙の健康への願い」なんてことに書き変わっていくかもしれません。
河村
宇宙事業部っていうのができているかもしれませんね。
山本
あるかもしれませんね(笑)
倉田
今後、健康の概念も今とは大きく変わるかもしれません。病気にならないというのはもちろんですが、メンタル的に健康であろうとすると、ストレスがないだけでなく、自分の夢や目標に取り組めているか、そういうことも健康の定義に含まれると思います。ウェルビーイングというのはその端緒なのかもしれません。


美しい星をいつまでも
山本
興味深い意見です。いずれにしても、我々は多くの課題を抱えながら生きていくことになります。将来、今より深刻になっていく社会課題もあるでしょう。それを解決していくのが我々だと。では、どんな課題が将来生まれ、それをどう解決していくか、アイデアを出してみましょう。
馬場
海底から宇宙まで地球に関わるあらゆるものを測定できる装置やサービスを作れたらいいなと思いますね。
村林
そうそう。「地球ヘルスメーター」なんて名前で、世界中の企業や政府と協力して、地球全体の健康状況を計測していく。知見がたまっていけば、たとえば地震が起きる前には魚が妙な動きをするみたいなことも、科学的な裏付けが得られるようになっているかもしれません。そこに島津が関われたら最高ですね。
山本
地震予知には、いま我々も研究に参加している光格子時計が役に立つでしょう。研究が進めばプレートのずれをミリ単位で計測できるようになる。防災の考え方は大きく変わっていくかもしれませんね。
Silvey
エネルギーの問題はやはり大きくて、化石燃料を使い続けた結果、温暖化がいろいろなところに影響を与えています。核融合発電が実現できれば、解決できると思うんですけど。
山本
本当にこれは実現してほしいですね。私は学生の頃、核融合を研究していたんです。以前は島津もいくつかの部署が研究に関わっていたこともあるんですよ。あの頃は、もっと早くできるだろうと思われていたんですが、みなさんにがんばってもらいたいと思います。
村林
産業機械事業部では、核融合発電向けの次世代のターボ分子ポンプなども開発しようとしています。将来性も十分にあると思われるため、核融合には積極的に貢献していきたいですね。

山本
健康のほうはどうですか。いま問題なのは、寿命と健康寿命のギャップです。だいたい男性で8年、女性で10年程は、人生の最後を誰かのお世話にならないといけない。これをどうやって短くして、健康寿命を延ばしていくか。
馬場
病気になって手術して入院となると、それは健康だとはいえませんから、やっぱり予防が重要なんだと思います。健康寿命と寿命のギャップって多くは生活習慣病に起因しているので、日々の食事や運動などで病気にならないようにするというのができたら、そんな社会が作れるんじゃないかと思います。
山本
いいですね。ほんとにちょっとした病気の兆候が見つかったら、食事や運動などによって予防措置を施す。だけど病気の種を見逃すこともありますよね。各家庭に質量分析計を一台ずつ置いて、血液や尿を毎日計れば良いですが、世帯数と同じだけの装置を、どのようにメンテナンスするのか。そもそも家庭で使うには装置の小型化が必須ですね。
馬場
そこは私が実現したいと思っていることで、装置に測定試料を入れてスタートボタンを押したら、誰がやっても同じ結果が出るという製品を目指したいんです。

Silvey
日々、ウエアラブルデバイスで汗の成分や心拍、血液などを計っておいて、ちょっと異常があれば、薬局に行って質量分析装置で血液を分析してもらうとか。そういうスキームができれば病院に行かなくてもよくなって、アメリカの高額な保険の問題も解決できそうです。
馬場
運動も大事ですよね。だけど、わかっていてもなかなか積極的に取り組めないのが運動です。運動の何が良いのかイメージが伝わっていないというのが問題で、そこで島津が役に立てるところがあるかもしれません。
倉田
あ、たとえば運動したときに得られる体の変化や成分などをAIによって「このままだと70歳の時にこうなります」「運動すると、こうなります」みたいな予測を提供できるといいんじゃないかな。運動による代謝の変化をすべて結果と紐づけられるようになるのは、まだ先のことだと思いますけど、たぶん。
山本
運動が健康に及ぼす効果は何なのか、発汗なのか、血流なのか、体温上昇なのか、筋肉がつくことなのか。そういうのがわかってくると、何か方法があるかもしれないですね。
堤田
ゲーム性があると、運動を継続するモチベーションになるかもしれませんね。ゲームメーカーと協業してそんなアプリが作れたら面白いかもしれません。

倉田
メンタルの領域も、今後は科学技術が積極的に貢献できそうですね。疎外感やうつ病って、これまでは社会環境の問題とされてきましたけど、意外と体内の特定の物質の代謝に起因しているということがわかってきています。それを正確に捉えて、パーソナル治療で適切な投薬や治療ができるようになれば、メンタルケアの考え方も大きく変わっていくと思います。
河村
新型コロナウイルスのパンデミックも記憶に新しいところですが、新種のウイルスの発生や感染拡大を地球規模で予測するような仕組みを作れたら、経済や暮らしへの影響を抑えることができるんじゃないでしょうか。
馬場
私は結局、人の健康も最後は地球の健康に戻ってくるのかなと解釈しています。地球が健康なら、ちゃんとした植物が育ち、それを食べる人の健康も保たれる。人がいつまでも元気で健康に生きられるためには、地球の健康も維持していかないといけない。
山本
人はいろんな命に生かされているということでしょうね。土の中には無数のバクテリアがいて、その代謝で生まれた栄養素で植物が成長し、それを食べて動物が育つ。ビルのフロアや工場など、そのエコシステムから外れたところで、農作物を生産して安全で十分な量の食料を維持しようという動きがありますが、自然の循環から外れたところで、果たして人だけが生きていけるのか。エネルギーの問題も食糧のことも健康寿命のことも、同じ次元で考えていくべきことなのかもしれませんね。
河村
まさに「『人と地球の健康』への願いを実現する」という経営理念通りですね。
山本
宇宙から見た地球は本当に綺麗な色をしていますね。ぽっかりと宇宙に浮かぶオアシスのようなものですね。そこだけ落ち着いた世界なんです。みなさんには、これがいつまでも続くようがんばってほしいなと思います。今日はどうもありがとうございました。

