challenge 社会課題への挑戦

社会課題への挑戦 世界規模のパンデミック「新型コロナウイルス」への挑戦未知の感染症に立ち向かう
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今、我々にできることは何か。
脅威の感染力に独自のPCR検査試薬で立ち向かう

Ampdirect技術で検査時間を大幅に短縮

2019(令和元)年12月末、原因不明の肺炎が発生――当時、この病原体が、世界を脅かすパンデミック(爆発的感染)を引き起こすことを、誰が予想できたでしょうか。

年明け1月に、病原体は新型のコロナウイルスであることが判明しました。各国が有効な策を講じる間もなく感染は急速に拡大し、ついにWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言する事態へと発展しました。

日本国内でも感染者が確認されましたが、当時、新型コロナウイルス感染の有無を高感度に判定するPCR検査装置や人員の配備が不十分であったため、社会に不安と混乱を引き起こしました。一般的に、PCR検査を行うためには、数多くの手順を踏んでPCRを邪魔する不純物を生体試料から除外する精製工程が必須です。検査結果を得るまでに時間を要し、手間もかかるため、増え続ける検査に時間と闘いながら向き合う検査担当者は日増しに疲弊し、検査体制強化のボトルネックとなっていました。

「島津の技術でできることは何か」。感染が拡大していくなかで感染者の特定は急務でした。「新型コロナウイルスを短時間で検出するためのPCR検査試薬をつくろう」、開発に着手することが決定しました。

実は島津では生体試料をPCRの反応液に直接添加できる「Ampdirect」という独自技術をすでに確立していました。この技術は、生体試料に含まれるタンパク質や多糖類などのPCR阻害物質の作用を抑えることができ、従来のようにDNAやRNAを精製する必要がありません。この独自技術を使ってこれまでにノロウイルスなどの検出用試薬を製品化した実績がありました。新型コロナウイルスのPCR検査試薬でもAmpdirectの技術的優位性を発揮でき、現場の課題解決に貢献できると考えたのです。

開発した新型コロナウイルス検出試薬キット
開発した新型コロナウイルス検出試薬キット

医療従事者を守るために、安全性を追求

培ってきた技術とチーム力を結集し、開発に着手してから1カ月というわずかな期間で製品化への目途を立て、2020(令和2)年4月、「新型コロナウイルス検査試薬キット」を発売しました。社内各部門が協力しただけでなく、札幌医科大学医学部の高橋教授(感染制御・臨床検査医学講座)の支援が、早期発売を可能にしました。性能確認用の検体が不足しているなか、速やかな確認試験が実施できたからです。

当時は、国内では第1波とされる流行拡大期で、社会全体が混乱し、さまざまな制約を課せられた時期です。従来のPCR検査法の問題を解決したこの試薬を求める連絡が殺到し、PCR検査における大幅な作業負荷の低減と検査数の増加に大きく貢献しました。

しかし、まだ課題はありました。医療現場では、検査のために鼻腔の奥に綿棒を差し込んで鼻咽頭粘膜を擦る必要があったため、被検者の負担はもちろん、被検者のくしゃみを誘発することによる医療従事者への飛沫感染リスクが懸念されていたのです。また、採取した試料を保存する保存液や容器も市場から入手困難になっていました。

これらを解決するため、唾液を用いたPCR検査が北海道大学病院の豊嶋教授の下で検討され、当社の試薬で鼻咽頭拭い液を用いた場合と遜色ない結果が得られることを確認しました。同年5月、島津の検査試薬キットの試料の対象に唾液が加わり、その後、検査の普及が加速し、医療従事者に対する安全性も向上しました。

こうして開発された試薬は、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株による第8波までの3年間に、約1200万回分の検査に相当する数を国内外に出荷しています。

社内診療所に設けた検体採取ブース
社内診療所に設けた検体採取ブース
開発した試薬と全自動PCR検査装置で社員の検査も行った
開発した試薬と全自動PCR検査装置で社員の検査も行った

一人でも多くの人に健康で豊かな生活を
Ampdirect技術が医療の未来を切り開く

さまざまな病原体の検出にも貢献

2023(令和5)年5月、日本では新型コロナウイルス感染症の感染法上の位置づけが2類相当から5類に変更されました。社会は落ち着きを取り戻しましたが、新型コロナウイルス感染が過ぎ去ったわけではありません。また、今回のように新たな未知の感染症がいつ起こるとも限りません。

目下、島津にとって次なる道筋として開けているのは、パンデミックの際に大きく活躍したPCR検査でのさらなる医療への貢献です。たとえ新たな脅威が現れても、積極的なPCR検査により、病気や病原体の早期発見につながる有効な手立てとなるように――PCR検査を大幅に省力化するAmpdirect技術を用いた新たな試薬の開発を進めていきたいと考えています。

PCR検査は、新型コロナウイルスの感染拡大により広く認知されましたが、実は以前から実施されていた検査法です。

島津のAmpdirect技術を用いれば、さまざまな病原体の検出に有用なPCR検査を、クリニックをはじめ、多数の医療機関で使用でき、より多くの感染症のケースで選択できることでしょう。医療の課題に向き合うことは、果てしない人知の挑戦でもあります。それでも島津が歩み続けるのは、「世界中の人々に健康で豊かな生活を」という、ゆるぎない思いがあるからこそ。これからも、確かな技術で社会に貢献できる未来を目指していきます。