challenge 社会課題への挑戦

Scroll
challenge
病気の治療に必要な医薬品の開発に分析技術で貢献

くすりの有効性と安全性を多種の分析装置で検証

製薬会社によるくすりの開発や品質管理を支援

くすりは、人の健康を維持するために欠かせないもの。病院で診断を受けて処方してもらったり、注射を打ってもらったりなど、日本では国民皆保険制度によって誰もがくすりを使った治療が受けられます。病院に行けないときは、近所の調剤薬局やドラッグストアなどで手軽に市販薬を購入することも。ちょっとした不調なら、市販薬で症状を緩和できたり、悪化させずにすんだりすることもできます。

一方で、くすりは体内に取り込まれて作用するだけに、命や健康に直接関わるものでもあります。だからこそ、くすりを製造する製薬会社は、その有効性と安全性を確保する責務があり、薬機法などの厳しい法的規制のもとで倫理性に基づいて開発・製造します。さらに、誰がどんな病気にかかっても早期に治療ができ、諦めることなく治療が継続できるように、安定的に供給することを目指しています。
島津は、そうした製薬会社によるくすりの開発や品質管理を分析技術で支えています。ひとつのくすりが製品として完成するまで、どれぐらいの年月がかかるかご存じでしょうか。新薬が市場に出るまでには、なんと十数年もの年月がかかります。

まずは、くすりの候補となる化合物を合成し、効果があるかどうか可能性を調べる基礎研究から着手。さらに、その化合物が体に及ぼす作用のほか、化合物自体(原薬)と製剤の品質を確保するための試験を何度も重ねて行います。そして、動物での安全性試験や人に対する臨床試験(治験)で絶対的な有効性と安全性を検証し、併せて製品化するための研究を進め、当局の承認を得てから市場で販売されます。長きにわたるこのプロセスの要所で、島津の分析装置が活用されています。

液体クロマトグラフ質量分析計を中心とした装置で貢献

島津のさまざまな分析装置がくすりの開発に活用されるなか、あらゆる段階で広く使われているのが、液体を使って混合物の成分を分離・分析する「液体クロマトグラフ」と、そこに物質をイオン化して質量を測定する質量分析計を結合させた装置である「液体クロマトグラフ質量分析計」です。

これらは創薬段階において、10万種以上もある化合物の中からくすりとして期待できる候補品を見つけ出すための検証のほか、合成した化合物の精製にも使われています。また、投与後にくすりが体内でどのように分布し、代謝・排泄されていくのかを調べるための尿や血中濃度の測定にも用いられています。

ほかにも、製品を出荷するための品質管理の段階では、くすりに含まれている有効成分の含有量の確認をはじめとする各種品質試験にも活用。さらに最近では、くすりの効果を確かめる薬理試験にも適用され、病気を引き起こすバイオマーカーを検知し、それにより、病気の原因となる物質を標的にし、新しいくすりを見つけ出すことにも貢献しています。

液体クロマトグラフ質量分析計 LCMS-8060RX
液体クロマトグラフ質量分析計 LCMS-8060RX

液体クロマトグラフや液体クロマトグラフ質量分析計のほかにも、島津の装置はくすりの開発・製造のあらゆる工程で活躍しています。例えば、原料の受入検査などで用いられる「分光光度計」、製造ラインの洗浄度を確認する「全有機体炭素計」、製造されたくすりの残留溶媒量を分析する「ガスクロマトグラフ質量分析計」、鉛など無機化合物の含有を計測する「ICP発光分光分析装置」、くすりが病原にきちんと届いているかを確認する「イメージング質量顕微鏡」などが挙げられます。それぞれの装置が、くすりの有効性や安全性を厳格にチェックする役割を担っているのです。

ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-TQ8050NX
ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-TQ8050NX

製薬会社の要望に応え続け、医薬品開発の難題を突破

開発・品質管理の効率化を目指して、分析の自動化に挑む

製薬会社が島津に求めているのは、信頼性の高い分析結果を出すこと。そこにわずかでも狂いがあれば、くすりの有効性と安全性が揺らいでしまい、服用後に健康被害をもたらすことにもなりかねません。

そのため島津は、開発・製造した分析装置をメーカーとして提供するだけでなく、分析方法そのものを研究し続け、製薬会社と協働しています。それは、高精度な分析装置があれば正確な分析ができるという単純なものではなく、運用の仕方によっては分析の精度が落ちる場合もあるからです。だから、装置を正確に運用するための環境や体制の構築、その証跡の保存・管理など、装置の適格性を示す評価に係るサポートも行っています。

さらに、厳格化していく法的規制に応じて、分析方法も更新しなければなりません。そうして集積したデータを管理するシステムも構築し、開発においては新薬が当局からスムーズに承認を得られるように支援。また品質管理においては、製造不良によって工場からの出荷を止めることがないように安定して分析できるようにバックアップしているのです。

近年特に、分析装置に求められているのが効率性。膨大な時間と手間を要する医薬品開発において、効率性を高めるためには自動化がポイントになります。
医薬品開発においては、分析すべき検体は膨大にあり、それらを一つひとつ分析するには手間と時間がかかるため、人手をかけずに自動化することが望まれます。

例えば、週末にサンプルを装置にかけておき、週明けに出社すると分析結果が出ているような仕組みです。いかに人手をかけずスピーディーに分析処理ができるか、かつヒューマンエラーのリスクを減らし、より一貫性のある正確なデータを取得できるかが、製薬会社から問われています。こうした課題にも、島津は製薬会社との地道な共同研究によって分析の自動化を実現してきました。

さらに、最近注目されているバイオ医薬品の開発においても、自動化がより強く求められています。バイオ医薬品とは、主に化学合成によって製造される一般的な低分子医薬品に対して、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術によって製造したタンパク質などを有効成分とする医薬品で、従来の医薬品では満足度の高い治療を行うことのできなかった病気への効果が期待されています。

バイオ医薬品の有効成分は、非常に大きい分子のタンパク質などであり、しかも構造が複雑なだけに分析にさらなる手間がかかります。また、複雑な製造工程の途中でさまざまな不純物が混入しやすいという弱点もあり、その不純物を特定していくには、途方もない時間がかかります。人が行うには限界があるため、自動化が強く求められるのです。

ほかにも、細胞培養を効率化するための検証や最適な分析方法の検索、その先のデータ解析においても自動化が求められています。手間のかかる分析を自動化することで、人的リソースを減らしてコスト削減ができれば、これからのバイオ医薬品の価格も抑えられていくことでしょう。

イメージング質量顕微鏡 iMScope QT
イメージング質量顕微鏡 iMScope QT

治療の難しい病気も治せるくすりを生み出すために

これまで島津は、製薬会社から自動化による開発効率の向上をはじめとする課題を次々と投げかけられ、その解決策を積み重ねることで分析技術を進歩させてきました。島津が課題解決を成し遂げてこられた背景の一つに、メーカーとして製品を提供する分野が多岐にわたっていることが挙げられます。さまざまな分野と接点があるからこそ幅広い知見が養われ、多角的な視点から新しい発想が生まれやすいという強みがあります。例えば、環境分析や食品分析などでの課題解決した事例をもとに、医薬品に応用するアイデアがひらめくといったこともあるのです。

くすりは時代とともに進歩を遂げ、これまで治療が難しかった病気に対して症状が発現する前の「超早期診断」によって、病気の進行を防ぐ効果が期待できるくすりも開発されてきています。
例えば、最近では、早期のアルツハイマー型認知症に対し、その原因物質である脳内の異常なタンパク質を除去することで、進行を遅らせるくすりが承認されました。また、がんもバイオマーカー測定によって早期の治療介入への期待が高まっています。

高齢化に伴って、くすりの需要がますます高まる現代。有効性と安全性を確保しながら、治らなかった病気をくすりによって治す、また病気の兆候をいち早く見つけて予防する。そうすることで、人の健康を守ることはもちろん、高齢になってもいきいきと社会活動ができる人を増やすことにつながります。また、経済的な理由から治療を諦めることなく、誰でも安価でくすりによる適切な治療が受けられるよう、島津はこれからも製薬会社と協働し、有効性と安全性を確保するくすりの効率的な開発と品質管理に貢献していきます。