社会課題への挑戦

食の安心安全を支え続ける島津の分析計測機器
食品添加物や残留農薬を分析
日本の食卓の安心安全を揺るがす大問題が1960年代から70年代にかけて顕在化しました。食品に含まれる添加物や化学物質および戦後日本の食糧難克服を支えた農作物の大量生産に伴う、農薬などによる健康被害や環境汚染です。
世界各国でこれらに対する措置が取られるなか、日本でも食品衛生法が1947(昭和22)年に制定され、初めて食品添加物が指定された後、品目や基準値などが追加・改定されてきました。また1968(昭和43)年には食品に対する農薬の残留基準が設定され、これにより農作物を出荷するには、残留基準をクリアしなければならなくなったのです。
こうした法の制定や見直しに活用されたのが島津の分析計測機器です。島津は1950年代から紫外可視分光光度計(UV)を販売しており、この装置で食品抽出成分の光の透過率を測定することにより、色素や保存料などの添加物の含有量を求めることができます。また1956(昭和31)年には、日本で初めてガスクロマトグラフ(GC)を開発し、残留農薬の分析が可能になりました。GCはヘリウムなどのガスを用い、試料を加熱して気化させて分析しますが、野菜などの食品は、そのままGCで分析するのではなく、細断、抽出、濃縮、濾過などの前処理が必要です。生活の基本となる食への不安が世に広がる中、島津は「人々が安心して食べ物を口にするには、装置の開発だけでなく、前処理などの分析技術も普及させなければならない」と考え、1964(昭和39)年に分析センターを開設。分析計測機器の開発を進めるとともに、講習会を開いて分析技術の普及にも努めました。国が初めて食品衛生法により農薬の残留基準を定めたときより4年も前のことです。その後、1972(昭和47)年にガスではなく液体を用い、試料を加熱することなく分析できる液体クロマトグラフ(LC)が登場すると、分析できる残留農薬の種類は大幅に拡大しました。

高速・高分離・高感度な機器で高精度検査を実現
残留基準が設定されていない農薬は、検出されたとしても販売禁止などの措置をとることができませんでした。そこで国は食品衛生法を改正し、2006(平成18)年に「ポジティブリスト制度」という新しい制度を導入しました。原則としてすべての農薬に残留基準を設定し、基準を超えた場合は販売禁止にするというものです。800種類を超える農薬が規制対象となり、検査においてはごく微量のものまで検出しなければならず、これまで以上に高い精度と、効率化が求められるようになりました。
そこで役立ったのが質量分析計(MS)です。GCやLCで分離した物質を、ごく微量であっても高感度で測ることができ、この機能を搭載したGC-MSやLC-MSは、農業試験場や野菜を出荷するJA、食品メーカー、公的あるいは民間検査機関など、さまざまな現場で活用されています。
最近では気体と液体の両方の性質を兼ね備えた超臨界状態を利用した超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)に注目が集まっています。GCやLCとは異なる分離特性があり、島津では目的成分の抽出から分析までを全自動で分析できるシステムを開発し、残留農薬を高精度に検出することを可能としました。
また、残留農薬の検査以外でも、島津の製品は食の安心安全に貢献しています。例えば高齢になると、スムーズにものを噛んだり飲み込んだりすることが難しくなります。そうしたえん下困難者にとって、飲み込みやすい食品であるかどうかは、食の安心安全にかかわる大きな要素です。えん下困難者向けの食品は、食材の硬さや付着性に基準が設けられており、基準を満たしているかを計測するために、島津の材料試験機が使われています。


食品の新たな価値を探り、社会全体の健康につなげる
機能性成分の分析などで健康増進に貢献
食品に入っていてはならないものが基準値以下であること証明することで、食の安心安全が社会的に担保されるようになると、健康に良い成分や認知機能を維持向上させる成分への期待が高まり、研究されるようになりました。
その一例が2015(平成27)年に施行された「機能性表示食品制度」で、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示できるというものです。例えば食物繊維には、おなかの調子を整えたり、余分な脂質や糖を排出することで生活習慣病を予防・改善したりといった効果が期待できます。緑黄色野菜に多く含まれるカロテノイドには、活性酸素の発生を抑え、取り除く作用があります。こうした成分が食品にどの程度含まれているのかを証明できれば、生産者としてはおいしさとは別の側面からPRができ、消費者にとっては健康に良いものを選びやすくなります。ここでも分析計測機器は、食品の付加価値を高め、食生活をより健康的なものにするという点でも、食を支えているのです。
「機能性表示食品制度」の施行に先駆けて、島津は2014(平成26)年に宮崎県や宮崎大学などと共に「みやざきフードリサーチコンソーシアム」を設立しました。翌年、宮崎市に開設された「食の安全分析センター」では、抗酸化・免疫力などに関する新たな分析技術の開発に取り組んでおり、機能性表示食品の安全性・品質の確保に貢献しています。
最新の機器と技術で健康長寿社会の実現を目指す
さらなる食への貢献のため、島津は農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)と食の機能性成分解析を目的とした共同研究契約を締結し、本社に「食品機能性成分解析共同研究ラボ(NARO島津ラボ)」を開設しました。また、2022(令和4)年、には、「一般社団法人セルフケアフード協議会」を農研機構や北海道情報大学、食品メーカーらと共同で設立しました。島津は「農作物などの機能性・安全性の検証」に加え、「アルツハイマー型認知症の診断・研究」などに用いる分析計測機器を開発することで、健康維持に必要な食を選択できる社会システムを構築し、食による健康長寿社会の実現を目指しています。
例えば、山口県では、山口大学などと共に、週に1回運動・栄養・認知機能訓練を行うグループ、指定のヨーグルトを毎日摂取するグループ、これまで通りに生活するグループと3つに分けて1年半にわたって追跡。認知機能や運動機能の低下予防に有効なものがあるかを比較・検証しました。これは、島津が数滴の血液からアルツハイマー病変(アミロイド蓄積)を高精度で検出する新しい分析法を確立した知見を活かして、行政や企業と連携した研究を行っています。
北海道の江別市などとの共同研究では、食を中心とした認知症重症化予防策の検討などを目的として、55歳以上75歳以下の江別市民1200人を対象に毎年1回検査を行っています。10年かけて調査をすることでアルツハイマー型認知症の発症因子を探るという、この分野では国内初の大規模な調査研究です。島津は、最新の分析計測機器を用いて血液検査などの測定結果の解析・評価を担当しています。
このように島津は、健康長寿社会の実現という社会課題についてヘルスケアの面からもアプローチしています。食は命の礎である、心身の健康を育むもの。人々の暮らしの根幹を支えるという使命感と誇りをもって、島津の分析計測機器はより良い未来のために、進化を続けていきます。

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