VOL.44 表紙ストーリー

VOL.44表紙
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川などの流れ込みや流れ出しのない、孤立した湖や池に生息してる魚はどのように入植したのか。ミステリーのような問題に一つの可能性を示す研究結果が、2020年発表されました。

『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』によればハンガリー・ドナウ研究所 生態学研究センターの研究チームは、外来種であるコイとギベリオブナの卵をマガモに与える実験を行いました。すると、驚いたことに排泄された糞のなかからわずか0.2%ほどの魚卵が生存して見つかりました。さらにその一部の卵は孵化に至ったということです。

この現象は、自ら移動する手段を持たない植物が取る生存戦略とよく似ています。種子を囲む果皮が弾けて種子を遠くへ飛ばしたり、風や水流、動物を利用して移動したり親の株から少しでも遠く、異なった環境へと種子を運ぶことで生き残りや繁栄をはかります。動物を利用した種子の散布の中でも被食散布は、動物に食べられることで、遠方への移動を実現したものです。

既出のマガモと同様に、トウガラシの一部は種子散布に鳥を利用しているのではないかとも言われています。トウガラシの辛味成分カプサイシノイドが種子を噛み砕いてしまう動物の食害を避け、実を丸呑みする鳥類に辛味成分カプサイシノイドへの感受性がないことを利用し、鳥だけに食べさせているとされる説です。

トウガラシと鳥とのHOTな関係は各地で確認されています。サイパンをはじめとする北マリアナ諸島に生育する「テニアンペッパー」は、チャモロ語で「ドンニ(トウガラシ)・サリ(カラスモドキ)」と呼ばれています。また、カンボジアのトウガラシ「マテ・アチサス」はクメール語で「鳥の落とし物(糞)」という意味だそうです。

コロンブスによって持ち出されてから500年あまり、中南米原産のトウガラシは世界中に広まり、各地で欠かすことのできないスパイスとして愛用されています。鳥だけでなく、ヒトをも利用したトウガラシの種子散布戦略だとすれば、大成功といえるのではないでしょうか。

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株式会社 島津製作所 コミュニケーション誌