お知らせ

2020年度 島津賞受賞者決定

2020.12.11(金)

第40回島津賞(2020年度)

名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授
同オプトバイオテクノロジー研究センター センター長

神取(かんどり) 秀樹(ひでき) 氏(60才)

受賞者には、表彰状・賞牌・
副賞500万円を贈呈
研究業績
ロドプシンのメカニズム研究と新規ロドプシンの発見・創成
推薦学会
日本化学会
受賞理由
超高速分光やタンパク質に結合した水分子1個を捉えることのできるオリジナルな赤外分光解析によるロドプシンのメカニズムの解明、さらには新しいロドプシン機能の発見や創成を実現した。これらロドプシン研究の成果は、光遺伝学の発展のみならず、視覚再生の遺伝子治療薬開発への寄与など幅広い応用に貢献したことを高く評価した。
研究内容
動物の視覚や微生物の光応答に関わるタンパク質がロドプシン(rhodopsin)であり、神取氏は独自の工夫を加えた分光学的手法を駆使してロドプシンのメカニズムの解明に挑戦し、その過程で新機能を有する多数のロドプシンを発見・創成しました。それらの成果は、光遺伝学注1(optogenetics)におけるツールの開発に大きく寄与しています。
我々の視覚で働く動物ロドプシンは、一度、光を吸収すると受容分子であるレチナール注2が外れてしまいます。その反応の詳細が解明されていない中、神取氏は超高速分光を動物ロドプシンに対して行うことで、光を吸収するレチナールが形を変える反応(異性化反応)が最初の出来事であることを明らかにしました。さらに、水の吸収が大きいことからタンパク質研究に有効に使われていなかった赤外分光を独自の工夫によりロドプシン研究に適用し、光がどのようにタンパク質に取り込まれ、それがどのように機能へと繋がるのかというメカニズムを明らかにしました。その代表例が霊長類色覚視物質の構造解析であり、色覚視物質の構造研究は現在も世界でオンリーワンです。赤・緑・青視物質が特有のアミノ酸や内部に結合した水分子を活用して色を見分ける仕組みの詳細が解明されようとしています。
1970年代、ロドプシンは動物だけでなくバクテリアなどの微生物も持つことが明らかになり、視覚のように光を信号に変換するだけでなく、イオンを輸送するなど様々な働きを持つことがわかってきました。2005年には、微生物のロドプシンを脳に発現させることで動物の行動を光で制御する光遺伝学という技術が開発され、脳研究に革新をもたらしています。光遺伝学に欠かせないツールがチャネルロドプシン、光駆動ポンプなどの微生物ロドプシンです。神取氏は微生物ロドプシンのメカニズム研究においても世界をリードする成果を挙げてきましたが、得られた分光データを活用して、新しいロドプシン機能の発見や創成を達成しました。具体的には、自然界から新しい機能を発見した例として、光駆動ナトリウムポンプ注3、内向きプロトンポンプ注4、新規チャネルロドプシン注5、酵素ロドプシン注6、ヘリオロドプシン注7などが挙げられます。未知の機能を創成した例としては光駆動カリウムポンプ、セシウムポンプなどを挙げることができます。また、これら新規ロドプシンは光遺伝学ツールとしての活用だけでなく、失明患者に対して視覚再生を実現する遺伝子治療薬として研究されるなど、幅広い応用が期待されています。
以上のように、神取氏は最先端の分光学的手法をロドプシンに適用することでメカニズムに関する新たな知見を得る一方、光遺伝学のツールとして高い可能性を持った新規ロドプシンを次々に開発しました。これらの新規ロドプシンの発見や創成には独自の分光技術が活かされており、神取氏のロドプシン研究は基礎、応用両面で高い評価を得ています。

神取氏の島津賞受賞については、名古屋工業大学のHPでも紹介されています。
用語説明
注1 光遺伝学
遺伝子操作によって微生物ロドプシンを神経細胞に発現させ、特定波長の光照射で神経活動を制御する技術。これにより電気刺激・薬物応答など従来技術では不可能だった細胞単位での神経興奮や抑制の制御が可能になり、脳神経機能の詳細を解明することが可能になった。
注2 レチナール
視覚の本体であるロドプシンの構成要素で、光刺激の受容に必須な物質。
注3 ナトリウムポンプ
細胞の内側から外側へナトリウムイオンを輸送し、神経興奮や心臓の拍動などの生命活動の基盤を作る極めて重要なタンパク質。光駆動ナトリウムポンプは微生物中で光を用いてこの働きを行う。
注4 内向きプロトンポンプ
生物体内で水素イオン(プロトン)を一方向に輸送するタンパク質で、通常は細胞の内側から外側にプロトンを排出する外向きポンプであるが、神取らによって微生物ロドプシンの中に逆向き(内向き)のポンプ機能が発見された。
注5 チャネルロドプシン
細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にあり、受動的にイオンを透過させるタンパク質であるイオンチャネル機能を有するロドプシン。
注6 酵素ロドプシン
酵素濃度を制御する機能を有するロドプシン。
注7 ヘリオロドプシン
2018年に神取らによって発見された。従来知られている2つの型いずれにも分類できないが、広く微生物やウイルスに含まれているイオンを輸送しない新規ロドプシン。未知の情報変換分子を介した光情報伝達に関わるものと推測されている。
島津賞とは

島津賞は、科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において著しい成果をあげた功労者を表彰します。表彰は毎年原則1名で、表彰者には賞状、賞牌、および副賞500万円を贈呈します。