高校生の頃、島津製作所の田中耕一フェローがノーベル賞を受賞したニュースをテレビで見たときのことは、いまもよく覚えています。血液一滴でどんな病気も早期発見して、病に苦しむ人を減らしたいという言葉がとても印象的で、私も「将来、こんな風になれたらいいな」と思い描いたものです。
その思いを胸に、学生時代は人工関節を主なテーマに研究してきました。所属していた専攻でいうと機械理工学ですが、学んだことを何に活かすかといえば、高校以来、ずっと人々の健康に貢献したいという思いが先にあったので、工学の中でも医療工学の道を選択。入社の際も、レントゲン(X線)関連の部署を志望し、希望通りの部署に配属されました。高校生のときに思い描いていた道を、一歩一歩、歩み始めています。
現在の部署に配属されて3年目のとき、X線を受ける検出器に取り付ける画像処理装置のソフトウェア開発責任者を任されました。製品開発のプロジェクトは大きくハードと電気、ソフトウェアの3部門に分かれますが、そのソフトウェアの担当です。そして、次に担当した「FLEXAVISION」というX線TVシステムの開発では、全体のプロジェクトリーダーを務めることに。大きな開発にも関わらず若い自分が任されたので驚きましたが、学生時代から1人で何かを突き詰めていくより、全体を調整するのが得意なほうだったので、そうした部分が向いていると判断されたのかもしれません。とはいえ、チームには私より経験のある人たちも多く、当初はかなり緊張しました。
年長者の多いチームでスムーズにプロジェクトを進めるため、心がけたのは様々な情報をその決定の過程も含めて共有するということ。私のもとに届く情報は、関係者全員に包み隠さずリアルに伝えるように意識しました。途中からは少々無茶といえるスケジュールで進める必要がありましたが、なぜその日程で進めることになったのか? という部分も含めて明らかにするとメンバーのモチベーションが違ってきます。最終的には予定通りにローンチすることができ、抜本的にソフトウェアを刷新した割にはトラブルもなく、機嫌よく動いてくれています。
無事に製品をリリースできてホッとしているところですが、もう次のプロジェクトも動き出しています。今度は商品企画から関わらせてもらっているので、どんなお客様のニーズをターゲットに、どんな仕様にするか? という部分から考えられるのが面白い。マーケティング部に言われたものを作るのではなく、お客様の顔を思い浮かべながら作れるという醍醐味があります。時代に合わせて変化するニーズを捉え、技術者がお客様の利用シーンをイメージできることが強みになると思います。
人類の平均寿命は年々延びていますが、健康寿命はそれより10年短いと言われています。私たちが手がける装置で、その健康寿命を少しずつでも延ばして、世界中の人々が人生を健康的に全うできるようにすることが目標です。