世の中、「平均より上」の人だらけ?
あなたは、平均より優れた人間ですか。
こんなこと聞かれたら困りますね。そうですとは答えにくいし、劣っているのもイヤだし、「ちょうど平均」とか答えてごまかそう……というのが、ふつうのリアクションではないでしょうか。
ところが実際には、ほぼすべての人が「自分は優れている」と思っているそうです。「みんながみんな平均より上」では平均の意味がなくなってしまいますから、現実にはそんなことありえません。つまり、多くの人が自分を過大評価している。これは「優越の錯覚」と呼ばれ、心理学の世界では古くから知られている現象です。けれど、どうしてこんなことが起こるのか、生物学的にはずっと謎のままでした。
2013年、日本である実験が行われました。まず被験者たちの「優越感」が調べられました。すると、彼らの多くが「自分は平均より22%優れた人間だ」と思っていました。さらに、脳の働きが観察されました。その結果、脳内にある「線条体」と「前部帯状回」というふたつの制御機構の同調性が低いほど、錯覚が強いという結果が出ました。
なんだか小難しくなってきました。要するに、「自分は他人より優れている」と思い込んでしまうのは、そもそも脳にそういう仕組みがあるからだとわかったのです。
脳は、わかっていないことのほうが多い器官です。100年来の定説が、あっさり覆ることもめずらしくありません。アメリカでは、2013年にヒトの脳の仕組みを解明するための国家プロジェクト「ブレイン・イニシアチブ」を打ち出しました。10年間で脳機能の全容解明に向けて、現在も進行中です。「ヒトゲノム計画」に続き、脳の研究は次なる世界的なムーブメントになるのではないかと目されています。それにしても、人体を司る脳がいまだにブラックボックスで、しかも「優越の錯覚」などという厄介な機能を備えているとは。「自分はまだまだわからないことだらけ」という、謙虚で慎重な姿勢のもと、自己分析は進めたいものです。