島津科学技術振興財団
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お知らせ
2017/12/11
平成29年度島津賞受賞者決定
- 研究開発助成は20件を選定 -

公益財団法人 島津科学技術振興財団(理事長 井村裕夫)は12月8日に開催した当財団理事会において、第37回(平成29年度)島津賞受賞者および研究開発助成金受領者を決定しましたのでお知らせいたします。

当財団は、科学技術に関する研究開発の助成および振興を図る目的で昭和55年に島津製作所の拠出資金により設立され、平成24年4月に公益財団法人に移行しました。基本財産は約10億円です。

島津賞は、科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において、著しい成果をあげた功労者を表彰します。また、研究開発助成は、主として科学計測の基礎的な研究開発に携わっている若手の研究者を助成しています。

第37回(平成29年度)島津賞受賞者および研究開発助成金受領者は次の通りです。

【1.島津賞 (1名)】
当財団推薦依頼学会より推挙された中から、当財団選考委員会および 理事会にて、受賞者1名を選出しました。

<<受賞者>>
東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座 
特任教授 半田 宏 氏

(島津賞として、表彰状・賞牌・副賞500万円を贈呈)
研究業績 新しいナノ磁性ビーズによる創薬標的の単離・同定・計測技術の開発
推薦学会 日本ケミカルバイオロジー学会
内   容 創薬においては、薬剤となる化合物がどのタンパク質1) と結合するかを突き止め、その機能を明らかにすることが重要である。化合物が標的とするタンパク質を探索する方法にはいくつかあるが、小さなビーズ2)の表面に対象とする化合物をあらかじめ固定し、さまざまなタンパク質と反応させ、結合したタンパク質を電気泳動法や島津製作所等のメーカが開発している質量分析装置3)で測定することでその正体を知ることができる。
 半田氏は、「サイエンスは個性とプライド」を研究モットとし、独自の技術開発は独創的研究を生むと考え、技術開発に向けて異分野融合研究と積極的に取り組んできた。その結果、ビーズのサイズを200ナノ4)メータサイズまで小さくすることで、単位あたりの表面積を従来の1000倍にまで高めて高感度な測定を可能とした。200種類以上のポリマ5)を探索してポリGMA(グリシジルメタクリレート)とスチレンの共重合体をGMAで覆うという手法で、タンパク質の結合頻度を高めると同時に、狭雑信号のもととなる非特異的な結合6)を抑制してなおかつ、ビーズ回収のための遠心分離7)に耐える強度をもった理想的なSG8)ビーズを開発することに成功した。さらにフェライト9)のナノ結晶をビーズに内包させた磁性ビーズ(FG10)ビーズ)も開発して、磁石で簡単に回収できるようにし、手作業が伴う遠心分離を不要としたタンパク質濃縮プロセスの自動化を可能にした。
  薬剤を固定化したSG/FGビーズ(通称:半田ビーズ)は、数十万種のタンパク質を含む細胞・組織破砕液からワンステップで薬剤と特異的に結合し、薬効に関わるターゲットを単離し、その定量的計測を可能とする、革新的なアフィニティ11)精製技術を確立することに成功した。SG/FGビーズは、特に、質量分析装置と一体化することで、薬剤の他に、代謝産物、DNA12)、タンパク質/ペプチド13)などのターゲットの迅速な単離・同定・定量といった従来では不可能であったことを実現した。また基礎研究にとどまらず、民間企業への技術移転によって実用化を図り、市販品として広く世界中の研究者、研究機関はもとより製薬企業においても使用されている。
 半田氏の業績は磁性ビーズの開発にとどまらず、ビーズを利用したケミカルバイオロジー14)の基礎的研究においても顕著な研究成果を挙げている。中でも特筆すべき業績としては、数十年以上も謎であったサリドマイド15)の薬害機構を解明しその重要なタンパク質としてセレブロン(CRBN)16)を世界に先駆けて同定したことである。一時市場から消えたサリドマイドがハンセン病17)や多発性骨髄腫18)などの難病治療に有効であることから再度脚光を浴びているが、サリドマイドの催奇性19)の機構が解明されたことで、副作用の無いサリドマイド類縁体を戦略的に開発するための道筋が見出された。
 その他、サリチル酸やビタミン、天然化合物へと磁気ビーズを活用して研究対象領域を広げる一方、磁気ビーズ自体についても蛍光物質を入れた蛍光磁気ビーズ(FFビーズ)を開発した癌の迅速診断への貢献など、研究意欲は益々盛んである。ケミカルバイオロジーという新しい研究領域の確立への貢献、功績により、島津賞を贈るにふさわしい業績と認め、ここに、平成29年度島津賞を授与することとしたものである。

1) タンパク質:20種類存在するL-アミノ酸が鎖状に多数連結(重合)してできた高分子化合物であり、 生物の重要な構成成分のひとつである。
  2) ビーズ:アフィニティ(後述)物質を固定する球状の支持体。従来は直径200マイクロメートル程度のアガロースという多糖が用いられていた。
  3)質量分析装置:分子をイオン化し、そのm/z(m:質量、z:荷電数)を測定することによってイオンや分子の質量を測定する分析法である。
  4) ナノ:10-9m、100万分の1mm。
  5) ポリマー:重合体、複数のモノマー(単量体)が重合する(結合して鎖状や網状になる)ことでできた化合物のこと
  6) 非特異的結合:アフィニティ物質以外に支持体ビーズに結合することをさす。
  7) 遠心分離:ある試料に対して強大な遠心力をかけてその試料を構成する成分(分散質)を分離または分画する方法
  8) SG:ラテックスビーズ。
  9) フェライト:酸化鉄を主成分とするセラミックスの総称で強磁性を示すものが多く磁性材料として用いられる
  10) FG:高機能性磁性微粒子。
  11) アフィニティ:生体高分子(たんぱく質や核酸)同士または低分子物質との結合性の程度を示す親和性をいう。
  12) DNA:デオキシリボ核酸 Deoxyribo Nucleic Acidの略語。4種類の塩基が二重らせん構造でつながり、遺伝情報が塩基の並び方(塩基配列)によって書かれている。
  13) ペプチド:決まった順番で様々なアミノ酸がつながってできた分子の系統群のこと。
  14) ケミカルバイオロジー:一連の低分子化合物を用いて生体反応の制御機構やネットワークを研究する研究分野。
  15) サリドマイド:睡眠薬や胃腸薬として販売されたが催奇形が判明し世界規模の薬害を引き起こしたが、抗多発性骨髄腫薬、ハンセン病の2型らい反応の治療薬としても知られる。
  16) セレブロン:たんぱく質の分解に関与する酵素複合体の構成因子の一種。
  17) ハンセン病:抗酸菌の一種であるらい菌の皮膚のマクロファージ内寄生および末梢神経細胞内寄生によって引き起こされる感染症。
  18) 多発性骨髄腫:形質細胞腫瘍の一種であり最も患者数の多い難治性血液腫瘍。
  19) 催奇性:ある物質が生物の発生段階において奇形を生じさせる性質や作用のこと。

【2.研究開発助成 (20件、助成金総額 2,000万円)】
当財団のホームページ等にて公募を行い、応募のあった中から、当財団選考委員会および理事会にて研究開発助成金受領者20名を選出しました(昨年度より8名増加)。助成対象となった研究は、先端技術に関するもので、いずれも今後その成果・発展が期待されます。

  研究者(五十音順) 研究題目 助成金額
1 自然科学研究機構 生理学研究所
生体恒常性発達研究部門
特任准教授  揚妻 正和
2光子励起の応用による脳深部からの記憶コード神経活動の計測と同定 100万円
2 東京大学
大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻
特任准教授  井上 智博
線香花火の火花連鎖分裂を駆動する化学反応機構の解明 100万円
3 京都大学
大学院生命科学研究科 
高次生体統御学講座
准教授  今村 博臣
高感度発光型バイオセンサーを用いた細胞外ATPシグナル計測法の開発 100万円
4 愛媛大学
  宇宙進化研究センター
特定研究員  大西 響子
巨大ブラックホールへのガス流入率の高精度測定 100万円
5 千葉大学
大学院理学研究院 化学研究部門
准教授  大場 友則
グラフェンを用いた分子サイズ分離分析システムの構築 100万円
6 東京工業大学
理学院 物理学系
助教  加来 滋
2次元トポロジカル絶縁体のエッジ電子状態の解明と局所特性計測法の開発 100万円
7 龍谷大学
理工学部 物質化学科
准教授  河内 岳大
一次構造エラーを組み込んだ合成高分子を用いた二次構造形成能評価 100万円
8 名古屋大学
高等研究院/医学系研究科 呼吸器内科
S-YLC特任助教  佐藤 和秀
ナノイメージングによる近赤外光応答性細胞死誘導プローブの作用機構計測 100万円
9 京都大学
大学院医学研究科 システム神経薬理学
准教授  實吉 岳郎
シナプス可塑性を制御するCaMK2と基質による自己活性化型シグナル複合体の解析 100万円
10 甲南大学
先端生命工学研究所
講師  高橋 俊太郎
DNAを用いて細胞内分子クラウディング環境を定量化する技術の開発 100万円
11 神戸大学
先端融合研究環
助教  高橋 英幸
メンブレン型機械共振器を用いた極微小試料の精密磁化測定・磁気共鳴測定法の開発 100万円
12 大阪大学
大学院基礎工学研究科 物質創成専攻
助教  田邉 一郎
電気化学環境下で測定可能な多角入射減衰全反射遠紫外分光法の構築 100万円
13 中央大学
理工学部 精密機械工学科
学振RPD  津金 麻実子
マイクロデバイスを用いた上皮細胞の縦断面観察および物質透過アッセイ法の開発 100万円
14 京都大学
大学院理学研究科 
物理学・宇宙物理学専攻
准教授  成木 恵
スペクトラム解析を用いた次世代高速素粒子計測技術の開発 100万円
15 東京理科大学
総合研究院
講師  野島 雅
回転電場質量分析器による生体分子のリアルタイム構造解析 100万円
16 東北大学
サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
講師  原田 健一
光格子閉じ込め原子を用いた高感度生体微弱磁場検出器の開発 100万円
17 東北大学
大学院医学系研究科 機能薬理学分野
助教  原田 龍一
タウ病理像・神経炎症選択的なイメージング法の開発 100万円
18 大阪大学
大学院基礎工学研究科 物質創成専攻
准教授  三輪 真嗣
非線形電界ポテンシャルによる電気磁気効果の研究 100万円
19 名古屋大学
大学院工学研究科 生命分子工学専攻
特任講師  湯川 博
近赤外‐Ⅱ蛍光イメージングによるエクソソーム生体内挙動解析技術の構築 100万円
20 金沢大学
新学術創成研究機構 
革新的統合バイオ研究コア
教授  リチャード・ウォング
高速AFMによる大腸癌細胞の分子ダイナミクス直接観察とナノ癌診断法の開発 100万円

なお、島津賞表彰式・研究開発助成金贈呈式、並びに島津賞受賞記念講演は、次の通り行います。
日 時 平成30年2月20日(火)
  表彰・贈呈式   14:00~14:50
  島津賞受賞記念講演   15:00~15:50
  懇親会   16:00~17:00
場 所 京都ホテルオークラ(京都市中京区河原町御池)