島津科学技術振興財団
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お知らせ
2014/12/09
平成26年度島津賞受賞者決定
- 研究開発助成は12件を選定 -

公益財団法人 島津科学技術振興財団(理事長 井村裕夫)は12月8日に開催した当財団理事会において、第34回(平成26年度)島津賞受賞者および研究開発助成金受領者を決定しましたのでお知らせいたします。

当財団は、科学技術に関する研究開発の助成および振興を図る目的で昭和55年に島津製作所の拠出資金により設立され、平成24年4月に公益財団法人に移行しました。基本財産は約10億円です。

島津賞は、主として科学計測の基礎的な研究において、近年著しい成果をあげた功労者を表彰するものです。また、研究開発助成は、主として科学計測の基礎的な研究開発に携わっている若手の研究者を助成するものです。

第34回(平成26年度)島津賞受賞者および研究開発助成金受領者は次の通りです。

【1.島津賞 (1名)】
当財団指定学会に推薦を依頼し、推薦のあった中から、当財団選考委員会および 理事会にて、受賞者1名を選出しました。

<<受賞者>>
筑波大学 数理物質系
教授 重川 秀実(しげかわ ひでみ)殿
(推薦学会:応用物理学会)
研究業績 光励起フェムト秒時間分解走査トンネル顕微鏡技術の開拓
内   容 近年、ナノテクノロジーを利用して、次世代の新機能・超高速デバイスを創成・開発する試みが盛んです。しかし、構造の微細化が進むほど、微小領域の構造やキャリア1)の高速な動的現象などを正確に理解し、作製・製造方法にフィードバックする必要があります。そのため、ナノメートル(1nmは10億分の1m)領域の超高速現象を構造と併せて観察・評価する計測技術が求められています。
1981年に発明された走査トンネル顕微鏡法(STM)2)は、固体表面の原子の配列まで観察できる高い空間分解能を持つことから、上記計測技術の最有力候補でした。しかし、時間分解能は通常ミリ秒(1000分の1秒)程度が限界で、高速の現象を観察できませんでした。一方、光学の分野では、超短パルスレーザーを利用してフェムト秒(1000兆分の1秒)の超高速現象を観察できる光学的ポンプ・プローブ法(OPP法)3)が開発されました。しかし、この方法では、一般的に試料上のレーザー光が照射される領域の情報が平均化されてしまい、原子レベルの観察は不可能でした。そこで、STMの発明以来、これら2つの技術を融合し、時間と空間の両方で高い分解能を持つ計測技術の開発競争が起きていました。しかし、様々な問題により、これまで実現できていませんでした。最大の課題は、レーザー光を照射した試料表面をSTMで観察する際、試料とSTM探針が熱膨張し、両者間の距離が変わってトンネル電流の正しい測定ができない熱の問題でした。

重川秀実氏は、2000年頃よりSTMとOPP法を組み合わせる研究に着手し、新しい顕微鏡の開発に取り組んできました。そして最大の課題であった熱膨張の問題を、レーザー光の平均的な強度を一定に保ちながらパルス対照射の時間間隔を変調してロックイン検出4)する遅延時間変調型STM5)を開発することで克服しました。その後、パルスピッキング法6)を遅延時間の変調に取り入れ測定時間を短縮することで信号の画像化が可能となり、2010年には世界に先駆け、STMの空間分解能を保ちながら、フェムト秒の時間分解能を持つ顕微鏡を完成しました。重川氏はこの顕微鏡を用いて、GaAs表面の唯1個のMnやFe原子の不純物準位が正孔を捉える過程の測定や、GaAs半導体のPIN構造7)内の電界でキャリア密度分布が変化する様子を画像化することに成功しました。さらに顕微鏡に電子スピン8)の情報を得る機能を追加し、2014年には幅6nmの単一のGaAs/AlGaAs量子井戸構造9)内で励起・配向された電子スピンが乱れていく様子を世界で初めて示すとともに、電子スピンの歳差運動10)を実空間で観察することにも成功しました。 本技術は、今後ナノデバイスやスピントロニクス11)分野の開発、ナノ物性の基礎研究などで重要な役割を果たすことが期待されています。 上記の革新的な顕微鏡技術を開拓した業績は、科学計測およびその周辺の領域における基礎研究において著しい成果を挙げたものとして高く評価されます。

1) キャリア:半導体中の電荷の移動の担い手である電子と正孔を合わせてキャリアと呼ぶ。
  2) 走査トンネル顕微鏡法(Scanning tunneling microscopy, STM):微小な鋭い針(探針)を試料表面のごく近傍に沿って走査させ、探針と試料の間に流れるトンネル電流を基に試料の表面形状や電子状態を画像化する顕微鏡。原子スケールの分解能が得られる。
  3)光学的ポンプ・プローブ法(OPP法):時間間隔(遅延時間)をもたせたパルス対(ポンプ光とプローブ光)の列で試料を照射し、ポンプ光で励起されたキャリアが元の状態に戻る過程を、プローブ光の反射率などの遅延時間による変化を計測して調べる方法。
  4) ロックイン検出法:分析のため試料を励起する光や電子線の強度などを、ある周波数で変調し、信号の中の対応する周波数成分を取り出すことで微弱な信号を検出する方法。
  5) 遅延時間変調型STM: レーザー光の強度を一定にしたまま、ポンプ光とプローブ光の間の遅延時間をある周波数で変調してロックイン検出し、微弱な信号を測定するOPP-STM。
  6) パルスピッキング法:ポッケルスセルなどを用い、高速繰り返し周波数のパルス列の中から、特定のパルスまたはパルス対(ポンプ光とプローブ光)を選択的に取り出す方法。
  7) PIN構造 :整流作用(電流を一定方向にしか流さない作用)を持つ電子素子構造の一つ(ダイオード)。P型とN型の半導体の間に電気抵抗の大きな半導体層(i層)を設けた構造。
  8) 電子スピン:原子中では、電子は原子核の周囲を回るとともに自転しており、この自転の性質をスピンと呼ぶ。自由なキャリアとして動く電子やホールもスピンを持つ。
  9) 量子井戸構造:電子をナノメートルスケールの薄い半導体層の領域に閉じ込めた構造。
  10) 歳差運動:コマのように自転しながら、その回転軸が円を描いて回転する運動。
  11) スピントロニクス:固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方の性質を工学的に利用、応用する分野。

【2.研究開発助成 (12件、助成金総額 1,200万円)】
当財団のホームページ等にて公募を行い、応募のあった中から、当財団選考委員会および理事会にて研究開発助成金受領者12名を選出しました。
助成対象となった研究は、先端技術に関するもので、いずれも今後その成果・発展が期待されます。

  研究者(五十音順) 研究題目 助成金
1 岡山大学
大学院自然科学研究科
助教 石川 篤
光吸収メタマテリアルと分子振動とのファノ共鳴を用いた超高感度赤外分光法の開発 100万円
2 山梨大学
医学工学総合研究部
助教 植田 郁生
針型濃縮デバイスとバリア放電イオン化検出器を用いる酸性ガス成分の高感度定量分析 100万円
3 日本女子大学
理学部
准教授 佐藤 香枝
マイクロデバイスを用いた細胞内Padlock RCA法による遺伝子変異検出法の開発 100万円
4 京都大学
医学部附属病院
助教 佐野 紘平
熱応答凝集性インジェクタブル放射性薬剤を用いる新たな小線源療法の開発 100万円
5 京都大学
大学院工学研究科
助教 清水 雅弘
ソレー係数の測定によるガラス形成酸化物融液のソレー効果の解明 100万円
6 自治医科大学
分子病態研究部
教授 西村  智
新規二光子イメージング手法による生体情報の可視・定量とその応用 100万円
7 久留米工業高等専門学校
制御情報工学科
助教 松本 光広
分光情報の三次元地図から消化器系の病変を発見する分光センサの開発 100万円
8 東京大学
物性研究所
助教 宮町 俊生
スピン偏極STMによる遷移金属−貴金属界面スピン構造の直接観測 100万円
9 関西医科大学
医学部
助教  安田 正治
情動系を介した行動制御における神経メカニズムの解明 100万円
10 東京大学
先端科学技術研究センター
准教授 谷内江 望
1細胞レベルで細胞系譜を一斉同定する「DNAバーコード時計」の開発 100万円
11 千葉大学
大学院理学研究科
助教 横田 紘子
光第2高調波顕微鏡を用いたフェロイック物質のドメイン壁の構造と物性評価 100万円
12 東京工業大学
大学院理工学研究科
助教 吉松 公平
酸化物超伝導体LiTi2O4の物性制御と磁気センサへの展開 100万円

なお、島津賞表彰式・研究開発助成金贈呈式、並びに島津賞受賞記念講演は、次の通り行います。
日 時 平成27年2月16日(月)
  表彰・贈呈式   14:00〜14:50
  島津賞受賞記念講演   15:00〜15:50
  懇親会   16:00〜17:00
場 所 京都ホテルオークラ(京都市中京区河原町御池)