コーティングとは、薄膜を形成する技術です。光学部品にコーティングすることで、反射率をコントロールできます。金属コーティングと誘電体コーティングに大別できます。
金属コーティングは材料として Al、Au、Cr等が用いられ、材料に応じた反射率特性を有します。ミラーやNDフィルタ(Neutral Density filter)に用いられます。
誘電体コーティングは光の干渉によって反射率や透過率等をコントロールする技術で、使用波長域で光の吸収が極めて少ないTiO2、Ta2O5、Al2O3、SiO2、MgF2等の誘電体を用います。レンズの反射防止膜やレーザ用ミラーの他、光学フィルタ等に用いられます。
レーザミラー&レーザウィンドウ

光の干渉

図1に示すように、単層の誘電体をコーティングした基板に光が入射すると、入射光aは空気と誘電体膜の界面で透過光bと反射光cに分かれます。透過光bは誘電体膜と基板の界面で反射光dと透過光eに分かれます。反射光c、dの位相が揃う場合は光は強め合い、位相が半波長分ずれる場合は弱め合います。この強め合ったり弱め合ったりする現象を干渉と呼びます。反射光c、dの位相を明暗で表現すると、図1のようになります。図1-1は、明るい箇所同士が重なり合っているので、強め合うことになります。
図1-1光の干渉(強め合い)

図1-1光の干渉(強め合い)


図1-2は、明るい箇所と暗い箇所が打消し合っているので、弱め合うことになります。
図1-2光の干渉(弱め合い)

図1-2光の干渉(弱め合い)
※実際には光の屈折が生じますが、本図では省略しております。


単層膜の反射率

図2のように、ガラス基板に光が入射すると、空気の屈折率は1であり、ガラスの屈折率をn1とすると、直入射(入射角θ1=屈折角θ2=0度)の場合のガラスの反射率R1は、フレネルの式より以下で表されます。

式

ここで、ガラスの屈折率n1=1.5とすると、ガラスの反射率はR1=4%となります。
図2 ガラス基板の表面反射

図2 ガラス基板の表面反射


次に、図3のように、ガラス基板の上に屈折率n2の誘電体をコーティングした場合、直入射における誘電体膜とガラス基板の界面の反射率R2は(2)式で、誘電体膜表面の反射率R3は(3)式で表されます。

式
式

ガラス基板上に誘電体膜を施した図3における全体の反射率は、誘電体膜表面での反射光とガラス基板上での反射光の干渉により決まり、誘電体膜の屈折率に応じて反射率は変わります。
図3 誘電体膜付きガラス基板の反射

図3 誘電体膜付きガラス基板の反射


図4に、ガラス基板の屈折率n1=1.5、誘電体膜の光学膜厚を波長λの1/4としたときの全体の反射率Rを示します。図4から、誘電体膜の屈折率n2がガラス基板の屈折率n1よりも大きいときは全体の反射率Rはガラスの反射率より大きくなり、誘電体膜の屈折率n2がガラス基板の屈折率n1よりも小さいときは全体の反射率Rはガラスの反射率より小さくなることが分かります。
図4 誘電体膜付きガラス基板の反射率

図4 誘電体膜付きガラス基板の反射率

反射防止膜(ARコーティング:Anti Reflection Coating)

図4のグラフより、誘電体膜の屈折率を調整することで反射率が小さくなることを利用して、反射防止効果を得られます。最も一般的なARコーティングは、ガラス等の基板の上にガラスよりも屈折率が小さい誘電体をコーティングしたものです。ただし、使用できる誘電体膜材料は限られているので(屈折率は限定される)、基板の屈折率とのマッチングにより反射防止効果に違いがでます。例えば図5のように、石英ガラス(屈折率=1.46)の上に屈折率n=1.38であるMgF2を光学膜厚λ/4(λ=550nm)となるようコーティングすると、波長550nmにおける反射率は1.79%まで低減できます。
図5 石英ガラスへのMgF2単層ARコーティング

図5 石英ガラスへのMgF2単層ARコーティング

図6のように、サファイア(屈折率n=1.79)の上にMgF2をコーティングすれば、ほぼ0%まで反射率を低減できます。
コーティングを数層にすることで、石英ガラス等でも単一波長であれば、反射率をほぼ0%にすることができます。
図6 サファイアへのMgF2単層ARコーティング

図6 サファイアへのMgF2単層ARコーティング

同様に他の材質においても、反射率をほぼ0%にする設計が可能です。コーティングの層数をさらに増やすことで、複数波長または広帯域波長でも反射率をほぼ0%にする設計が可能です(図7)。多層ARコーティングは、特にレーザ用途で多用されています。
図7 石英ガラスへのMgF2単層ARコーティング

図7 石英ガラスへのMgF2単層ARコーティング

増反射膜(HRコーティング:High Reflection Coating)

図8のように、高屈折率材料および低屈折率材料を着目する波長λにおいて最適な膜厚(光学膜厚=λ/4)で交互に積層することで、各層界面からの反射光は干渉により強め合います。吸収や散乱がないコーティングであれば、層数を増やすことで、反射率を100%にすることができます。
図8 増反射膜の原理

図8 増反射膜の原理


例えば、図9は光学膜厚λ/4(λ=550nm)となるようHRコーティングをした場合の層数が11層のときの反射率を示しています。図10のように、層数を増やしていけば、反射率は100%に近づいていくことが分かります。波長550nmにおいて、11層、21層、31層の反射率はそれぞれ98%、99.9%、99.999%となります。
図9 11層HRコーティング設計例

図9 11層HRコーティング設計例

図10 層数増加によるHRコーティング反射率の改善例

図10 層数増加によるHRコーティング反射率の改善例


誘電体膜の入射角依存性

誘電体膜に光が角度を持って入射すると、見かけ上のコーティング膜厚は大きくなりますが、コーティング特性は全体に短波長側にシフトします。一例として、図11に波長550nm、入射角0度に最適化した2層ARコーティングの入射角度依存性のグラフを示します。入射角0度のときは波長550nmにおける反射率が0%ですが、入射角が増加するにつれて反射率が大きくなり、入射角30度、45度において、それぞれ0.24%、1.26%となります。
図11 ARコーティングの入射角依存性(λ=550nm)

図11 ARコーティングの入射角依存性(λ=550nm)

図12は、図11のコーティングで入射角0度、30度、45度のときの波長と反射率の関係を示しています。入射角0度のときは反射率が最小となる波長は550nmですが、入射角が増加するにつれて反射率が最小となる波長は短波長側へシフトすることが分かります。コーティング製品を使用するときは、入射角が仕様通りとなるよう配置することが重要です。
図12 ARコーティングの波長シフト

図12 ARコーティングの波長シフト


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