分散とアッベ数 -基準波長と屈折率の波長依存性-

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Dispersion and Abbe's number

光の速度は通過する物質により異なるため、屈折率は物質ごとに異なります。また、同じ物質でもあっても光の波長により物質内を通過する光の速度に差があるため、屈折率が異なります。この波長により屈折率に差がでる性質(波長依存性)を分散と呼び、アッベ数(逆分散率)という指標で表します。この分散特性により、光学系における色収差が発生します。ある波長範囲での屈折率差などを部分分散といいます。特には主分散といいます。

主分散およびアッベ数は、「JIS B 7090:1999 光学及び光学機器―基準波長(ISO 7944:1998 Optics and optical instruments-Reference wavelengths)」に定義されています。この規格には、光学材料などの特性を記述するために使用する「二つの基準波長」および「推奨波長」も規定されています。(※1)
基準波長は、水銀e線546.07nmとヘリウムd線587.56nmで、それぞれの基準波長に対してアッベ数(ν)は式(7)、(8)に示すように定義されています。添え字を省略した場合はd線を基準としたアッベ数と解釈するのが一般的です。

(7)

(8)

また、部分分散を主分散で割った値を部分分散比といいます。主分散にを用いた場合はθ'、を用いた場合はθの記号で表します。例えば、g線からF線までの部分分散比は式(9)のように表されます。

(9)

この部分分散比を縦軸、アッベ数を横軸にとると、多くの硝材がある直線上に分布します。一部の硝材はこの直線上の分布から外れるものがあり、このような硝材は異常分散ガラスと呼ばれます。

JIS B 7090には、前述の二つの基準波長に加え、必要に応じて使用してもよい波長として、推奨波長が規定されています。以下の表に基準波長と推奨波長を示します。基準波長と推奨波長は、基本的に特定の元素に起因する輝線(スペクトル線)となっています(レーザを除く)。

波長
[nm]
スペクトル線 元素
(励起媒体)
備考
365.01 i 線 Hg  
404.66 h 線 Hg  
435.83 g 線 Hg  
479.99 F’ 線 Cd  
486.13 F 線 H  
543.5 --- He-Ne レーザ
546.07 e 線 Hg (基準波長)
587.56 d 線 He (基準波長)
632.8 --- He-Ne レーザ
643.85 C’ 線 Cd  
656.27 C 線 H  
波長
[nm]
スペクトル線 元素
(励起媒体)
備考
706.52 r 線 He  
780.0 --- Rb  
852.11 s 線 Cs  
1013.98 t 線 Hg  
1064.1 --- Nd:YAG レーザ
1128.66 --- Hg  
1395.1 --- Hg  
1529.6 --- Hg  
1813.1 --- Hg  
1970.1 --- Hg  
2325.4 --- Hg  

上記の基準波長と推奨波長には、液体などの屈折率を示す際によく利用されるナトリウムD線(589.3nm)が含まれていません。ナトリウムランプの輝線は、近接する2本のD1線589.6nmとD2線 589.0nmが存在していますが、中間値をとって、D線 589.3nmと表現することが一般的です。
基準波長が1波長ではなくe線とd線の2波長になっている事、基準波長にD線が無い事については、JIS B 7090の解説(※2)に経緯の概要が記載されています。

  • ※1:JIS B 7090におけるすべての波長は、標準空気中における値です。
  • ※2:JISの解説は冊子にのみ記載されており、Webでは閲覧できません。