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File No.05

身近にあるけど意外に知らない?

真空ってなんだ

真空のおかげでできたこと

私たちは、日常生活の実にいろんな場所で真空を活用しています。
たとえばLEDが主流になる前、100年以上愛されてきた白熱電球。真空にしたガラス球内にフィラメントを封入し通電すると、発光するわけですが、これが真空でなければ、たちまち燃え尽きてしまいます。エジソンが白熱電球を発明したとき、日本の竹をフィラメントに利用したのは有名な話。エジソンはさまざまな素材をフィラメントで試す中で、日本の竹と出会い、連続点灯時間1200時間という記録を達成しました。

スーパーの店頭では、ソーセージやハンバーグなどさまざまな食品が真空パックされて販売されています。丈夫なビニール袋に食品を詰めて、ポンプで空気を抜いてパック。食品が傷むのは空気中に漂っている細菌が付着して繁殖するせいなので、空気がなければ腐るのを防げるというわけです。最近は、コンビニでたくさんの種類を見かけますね。

魔法瓶も真空の特徴をうまく使った製品です。熱は金属や木、ガラス、液体などの物質を通して温度の高いほうから低い方へ移動する性質があります。もちろん空気も熱を伝えます。魔法瓶は、ステンレスやガラスで内びんと外びんの二重構造を作り、その間を空気がない状態にすることで、熱が外へ伝わるのを防いでいるのです。

インスタント食品も真空から生まれた発明です。標高の高い場所に行くと沸点が下がることは聞いたことがあるでしょう。気圧が下がって水の分子が蒸発しやすくなるためで、富士山の山頂では87℃、エベレストの山頂では70℃程度で沸騰します。これがさらに気圧が下がっていくとどうなるでしょうか。そう、0℃でも沸騰するという現象が起こるのです。0℃以下では水は固体(氷)として存在しています。つまり、液体である水を経由しないまま、固体からそのまま気化してしまうのです。ドライアイスと同じ状態ですね。茹で上げた麺を凍らせて真空へ。すると、水の分子が蒸発して、固まった形のままの乾燥麺のできあがりです。

真空は、からっぽではない?

このように、いまや私たちの生活とは切っても切れない真空ですが、実をいうと真空とは言うものの、厳密に何もない状態をつくることは、簡単なことではありません。吸盤を冷蔵庫にくっつけて引っ張ると、吸盤が浮き上がって冷蔵庫との間に隙間ができます。ぴたりとくっついていたところが広がったのだから、その隙間は「真」の「空」と呼びたいところですが、実際のところ、吸盤のわずかな凹凸の間に残っていた空気が広がったにすぎず、真空度としてはまだまだ序の口です。

空気の正体は、主に窒素と酸素の分子です。気体の体積と分子数の間には、気体の種類に関係なく、次のような法則があります。
「1気圧、0℃のとき22.4リットルの体積に6×1023個の分子を含む」
10の23乗というと、1兆個の1000億倍といく途方もない数字で、1ミリリットル(1立方センチ=角砂糖一個くらい)でもざっと3兆個の1000万倍を超える分子がある計算です。この分子を一粒残らず取り除ければ、真空ができるというわけですが、現在の技術で実現できている超高性能なポンプでも、到達できるのは1兆分の1気圧程度。その状態でもまだ3000万個の分子が残っています。

はて、これは真空かと問われたら、物理学的な立場からはとても真空とは呼べないでしょう。一方、産業界にとってみれば十分すぎる真空度で、インスタントラーメンはもちろん、ごくわずかな酸素がまじっても製造に支障を来すとされる半導体の製造工程でも合格ラインに到達しています。こうしたこともあってか、日本工業会の定義では、真空とは「大気圧より低い圧力の気体で満たされている特定の空間の状態」とされています。

ちなみに、宇宙に飛び出していっても、原子がまったくゼロになることはありません。宇宙空間でも星間ガスが濃い星雲の原子密度は1ミリリットルあたり1万〜10万個で、もう少しで人工的に作り出せそうな真空度です。星雲を外れると、1ミリリットルあたり原子1個、銀河と銀河の間に飛び出していくと1立方メートルあたり原子1個とかなりの過疎状態になりますが、それでも空(から)ではないのです。

一説によれば、真空の語源は仏教用語で、悟りの境地=涅槃を表していると言われます。宇宙もこの世だけに、真空に至るのはなかなか難しいことのようです。

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