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(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。

今日からはじめるアンチエイジング!

「登山運動のススメ」

高血圧、高脂血症(高コレステロール)、糖尿病といった現代社会に増え続ける生活習慣病は、運動不足と栄養過剰による脂肪の蓄積が主な原因になっている。
実はその脂肪を効率よく燃焼できるのが「山登り運動」。
実際に山登りをしなくても、その特異性を考慮した運動を日常生活に取り入れることで健康を増進できる。

最近、マスコミで話題になっている「メタボリックシンドローム」。厚生労働省の調査では、男女とも40代で特に割合が高くなり、現在日本の40~74歳男性の実に2人に1人が罹患、または予備軍であると推定されている。内臓脂肪が原因とされるため、メタボリックシンドロームかどうかの重要な判断基準となるのがウエストサイズだ。男性で85センチ、女性で90センチ以上で要注意といわれるが、あなたは大丈夫だろうか?
脂肪を減らすためには、まずは食事制限によるダイエットと思ってしまうが、鹿屋体育大学教授・山本正嘉氏によると、運動を取り入れない減量にはリスクが伴うという。
「もちろん、普段からカロリーを摂りすぎている方は、摂取量を減らさなければなりません。でも、ただ食事を減らすだけの減量は、脂肪とともに脂肪以外の組織も減らし、筋が細くなったり、骨がもろくなったりしてしまいます」
体の脂肪を燃焼させる運動といえば、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が一般的。しかしより理想的な運動が” 登山“だそうだ。
「登山は、エネルギー消費量が非常に大きく、適度な負荷によって心肺機能、脚力の強化ができるという3拍子揃った有酸素運動です。脂肪燃焼に一番効果的な運動は、持久力トレーニングと筋力トレーニングを併用することですが、これは登山体力を上げるためにも有効なトレーニングなんです」
いきなり登山というと、敷居が高いように感じられるが、まずは登山の特異性を考慮した運動を行うことで、登山運動に近い効果が期待できる。当然ながら、山に登るための体力をつけるためにも有効だ。実際の登山には、景色を見たり、新鮮な空気を吸ったりすることによるリフレッシュ効果もあり、いつかは挑戦したいもの。では、初心者が実際に山へ出かける時は、どんなことに気をつけるべきなのだろうか?
「山もいろいろありますが、最初は2~3時間くらいのコースがあるところがいいですね。誰もが気軽に登れる、地元の小学生が遠足に行くような山を選ぶといいでしょう。また、登山が好きになるかどうかは、初めの印象が重要です。ぜひ天気がよくて気持ちのいい日を選んでください」。

メタボリックシンドロームを解消!誰でもすぐにはじめられる“山登り運動法”

持久力トレーニングと筋力トレーニングを併用することで、効果的に脂肪を燃焼させることができる。
簡単にはじめられるので、ぜひ空いた時間に実践してみよう。

持久力トレーニング

●1日30分の坂道ウォーキング

持久力系トレーニングには、歩・走・泳などがある。ウォーキングは手軽にはじめられる一方、運動強度が弱いために効果が薄いという欠点も。そこで、意識的に坂道を入れたウォーキングがおすすめだ。傾斜の分、自分の体重を持ち上げるため、ウォーキングの約2倍の運動効果があるといわれている。自宅の近くに適当な坂道がない場合は、階段の上り下りでもOK。まずは一日30分からはじめてみよう。

筋力トレーニング

山登り運動の場合、筋力トレーニングは自分の体を軽快に動かすことを目的とするので、自分の体を負荷とするトレーニングでよい。最初の2週間は正しい姿勢を身につけることを意識し、疲れて姿勢が保てなくなったらそこでやめるようにすること。徐々に回数を増やしていこう。

●スクワット

〈効果〉日常生活における主働筋でもある、大腿四頭筋を強化する。バランス能力を養うほか、筋肉痛の予防、膝関節痛の予防・改善にも効果がある。
〈方法〉足を軽く開き、膝関節を90度までゆっくり屈伸する。その際、つま先と膝の向きを一致させるようにする。楽にできるようになったら、荷物を背負って行うか、片脚で行うとよい。

●上体起こし

〈効果〉腹筋を強化する。腹筋力が弱まると、ぽっこりお腹が出てきて、背骨が湾曲し腰痛やヘルニアの原因ともなる。
〈方法〉膝を直角に曲げ、背中を丸めて上体を起こす。できない人は、腕を前方へのばし上体をわずかに起こすだけでもよい。

●腕立て伏せ

〈効果〉上腕三頭筋を強化する。腕を脇から離して行うと大胸筋を強化することができる。
〈方法〉うつ伏せになった状態から、両腕を伸ばす力で体を持ち上げる。水平な地面で行うことがつらい人は、台を使って斜め腕立て伏せをするとよい。

あなたは実践できている? 肥満をストップする食事の三原則

1日3食、きちんと食べる

一日に同じカロリーを摂取した場合でも、回数が少ないほど体に脂肪がつきやすい。また、朝食を摂る人と摂らない人では、学校のテストや仕事の効率に差が出るという調査報告も…。

食事の量は、朝を多めに、夜を控えめに

朝はカロリーを効率よく消費することができるが、副交感神経の働きによって脂肪合成が活発になる夜は、体が体脂肪を蓄積しやすくなる。

食べてから寝るまで3時間あける

寝る直前に食べると、エネルギーはほとんど消費されず体脂肪となる。食事と就寝の間は、3時間程度あけることが望ましい。

リラックス効果をもたらす“山登り呼吸法”

酸素量が減る高所では、肺の換気量を抑えながら酸素を多く血液に取り込める深くゆっくりとした呼吸法、つまり腹式呼吸が望ましい。呼吸は自律神経と深い関係があり、実は腹式呼吸をすることでリラックス時に活発になる副交感神経の働きが増し、精神安定、血圧上昇抑制、脳の活性化などの効果があるといわれている。
日常生活でも習慣にすることで、手軽にストレスを解消することができるので、忙しい毎日を過ごしている人ほど、ぜひ試してみてほしい。

腹式呼吸のやり方

①お腹に本などの重しを乗せ、仰向けに寝転ぶ。
②ゆっくりと口から息を吐く。この際、お腹に乗せた重しが徐々に下がるよう意識する。
③鼻から深く息を吸う。この際、重しが徐々に上がるつもりで行う。
④②の要領で、吸った時間の2倍の時間をかけて息を吐く。
※①~④を繰り返す

最後は意識改革!?

運動も食生活も、大切なのは、やり続けること。そこでお薦めしたいのが“測るだけダイエット”だ。これは、朝晩必ず体重計に乗って、その結果をグラフにつけるというもの。体重を記録していくうちに、自分の体重の増減に影響する運動効果や食生活を自覚するようになり、自然とよい習慣が身についていく。モチベーションを保ち続けるためにも、取り入れてみるといいだろう。

監修:鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター 教授

山本 正嘉(やまもと まさよし)

国際武道大学体育学部助教授を経て1998年より鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センターに在籍。現在、同大教授。「高所トレーニングの科学」(杏林書院)、「スポーツ選手と指導者のための体力・運動能力測定法-トレーニング科学の活用テクニック」(大修館書店)、「登山の運動生理学百科」(東京新聞出版局)、他多数。

(注)所属・役職および研究・開発、装置などは取材当時のものです。